「……貴様、志貴様――」



その言葉で徐々に覚醒していく意識。

変わらないいつもの日課。

そう、こうして起きるようになって3年。

時々、ゆっくり寝たくなるけどそういうと彼女の眉毛は八の字になってしまうから断じて出来ない。

いや、それはそれでソソラレルのではあるが、そんな事を言ったときには赤い髪に自分の命が刈り取られてしまう。

それは流石にゴメンこうむりたい。

とうだうだしていたが、いい加減に目を覚ます事にした。



「おはよう……翡翠。いつもありがとう。」



そういって俺は体を起こした。

すると、翡翠はいつも通り無機質な顔のまま礼をする。

時間はいつも通りの7時。

大学に行くまでにはかなり余裕がある。

だが、この時間に起きないとお仕置きが待っているのでそう長くは寝てられないのだ。



「お着替えはそちらに。朝食の準備が出来ておりますのでお早めに。」



そういって翡翠は部屋を後にした。

俺はあくびをかみ殺しながらベットから這い出す。

そして、用意された服へと着替えようとする。

――とその時違和感を感じた。



「え、朝食?」



その言葉が志貴の頭に残ったのだから。



遠野家物語 〜殺人貴と正義の味方〜



第1話 再会は突然の朝







話は4日前にさかのぼる。



「だ…大丈夫ですか、姉さん。」



琥珀の顔を心配そうにみつめる翡翠。



「あははは、そんな顔しないで翡翠ちゃん。姉さん、貴方に萌え死にしちゃうから。」



一方の琥珀にはいつものキレがない。

そして、琥珀の右腕には包帯が巻かれていた。



「それで、お二方は反省しましたか?」



いつもの二倍増しの無表情さで翡翠は元凶となった二人を見つめていた。



「すいません。」

「……悪かったわ。」



そううなだれている二人は彼女たちの雇い主、志貴と秋葉だった。

その様子は正に檻に入れられた猫。

特に、秋葉のこの姿をグレイトキャッツやカレーの王女様が見たら手を叩いて喜ぶに違いない。



そもそもの原因は志貴が大学でアルクといたと言う事が始まり。

本人は気がついていなかったようだがラブラブモード全開で。

そう、それは本当に熱かったと妹Aは語る。

そして、家に帰ってきたところを妹急襲。

逃げる志貴、追う秋葉。

逃げる志貴、追う秋葉。

逃志貴、追秋葉。

逃志、追秋。

そして――



「しつこい!6+Cのお嬢様キック!!」

「それはヤクザキックだ、秋葉!!」



志貴が秋葉の殺人キックを超回避した瞬間だった。

面白がって観戦していた琥珀に直撃したのは。

あの夜ならまだしも、今は常人のマジカルアンバーは見るも無残に吹っ飛ばされ、窓ガラスを打ち破り二階から転落。

しかし、琥珀脅威のメカニズムかなんかで幸いにして軽傷ですんだ。

そう……右腕、複雑骨折2ヶ月という軽傷で。





「あの時は大変だったよなあ。あの後、俺と秋葉は正座で朝日を迎えたんだっけ?」



翡翠先生は寝る事を許してくれませんでした、まる

だから最近食事は外で済ませてた。

それが…今日は用意してあるといった。



「ま・さ・か…?」



そう、琥珀は料理が出来ない。

秋葉なんて論外も論外。

ならば……残された人間は一人。



「……逃げるか?」



だが、今逃げたらさらなる恐怖が襲ってくる事は必定。

流石に長きに渡る生活はそれくらいの予測を立てるくらいにはなったのだから。

結論は一つ。



「落ち着け…まだ決まったわけじゃない。今日は弁当とか買ってきたのかもしれない。」



そういって覚悟を決める。

限りなく後ろ向きな覚悟であるが。

そして、志貴はドアを開け放った。






目の前には予想外の状況が展開されていた。

いや、ここはまだ夢の中なのだろうかとあえて言いたい。

そう、かりかりのトースト、ふっくらした目玉焼き、シャキシャキのサラダにいい香りのコーヒー。

それのどれもが朝食として申し分のないものだった。



「おはようございます、兄さん。」



そして、優雅にあいさつしてくるわが妹、遠野秋葉。



「ああ、おはよう。」



とりあえずで挨拶を返す。

だが、未だに意識がハッキリしない。



「さあさあ、志貴さん、お席について召し上がりましょうね。」



そういって琥珀さんが席を勧めてくる。

その右腕には包帯が巻かれたままだ。

ということは琥珀さんが作ったのではない。

だが、この梅の香りがしない食物はおそらく翡翠製作でもなさそうだ。



「ええーい。」



俺は覚悟を決める事にした。

席に着き、まずは目玉焼きに手を出す。

食べる、むさぼるようにして食べる。



「あ、上手い。」



その一言を聞いて、琥珀と秋葉がニヤリと笑った。

どうやら、何かを試していたようだ。



「やりましたね、秋葉様。」

「当然ですわ、私が新しく選んだ執事ですから。」



その一言を聞いて思い出す。

そういえば、新しく執事を雇うという話をしていた。

その人が来たという事だろう。

それでこの料理にも納得がいく。



「翡翠、彼らを呼んできてちょうだい。」

「かしこまりました。」



翡翠は礼をすると、部屋から調理場の方へ出て行った。

数分の合間ができる。俺はその間に料理を食べ続け、秋葉はコーヒーの匂いを楽しんでいた。

そして、数分後。



「秋葉様、お連れしました。」



その声を聞いて俺は顔をあげて……固まった。

それはこの部屋に入ってきた男も同様だった。



「「おまえは!?」」



奇しくも二人の第一声も同じ。

さらに、男の後ろから入ってきた少女も俺の顔を見て固まったのだった。

その瞬間、室温が下がった事はいうまでもない。



「あら、志貴様と衛宮さんは知り合いだったのですかー?」



いつもの雰囲気で無邪気に質問する琥珀さん。

俺としてはどうするか一瞬迷う。

昨夜出て行っていたといえばこの後、秋葉による秋葉の秋葉のためのカーニバルが俺に対して行われることは必定だ。



「いえ、他人の空似です。失礼しました。」



だが、礼儀正しく目の前の男…新しい執事が答えてくれた。



「よく考えればこれほど貧弱な男ではありませんでしたので。」



訂正、こいつ敵。



「ああ、俺もそうだった。こんな嫌味な男じゃなかったよ。」



それにムッとする男。してやったりだ。



「まあ、いいです。じゃあ、改めて紹介します。今日からこの屋敷で住み込みの執事をしてもらう衛宮士郎さんとそのお連れのセイバーさんよ。」



その声に反応して二人が礼をする。



「で、衛宮、セイバーさん。こっちが私の兄で遠野家の長男の遠野志貴です。」

「「よろしくお願いします。」」



二人は俺に礼をする。

特に衛宮という執事は敵対心バリバリで。室温はどんどん下がっているだろうがそんな事は知った事ではない。



「何だか…少し寒くない、琥珀?」

「そうですね、秋葉様。まさに修羅場!!って感じですから。もしかしたら、誰かさんをめぐっての骨肉の争いですかね〜。」



そう言って琥珀はセイバーを見た。

その瞬間別の場所で気温が格段に下がったのは、言うまでもなく……

俺が秋葉に追いかけられたのは言うまでもなかった。

ちなみにあの男、執事である衛宮士郎はそれをみて、ほくそ笑んでやがった。

とりあえず怨敵認定が完了させながら俺は逃げ回ったのだった。








「全くひどい目にあった。」



どうやら秋葉はセイバーをめぐる骨肉の争いと断定。

俺を滅殺対象として認定したらしい。

それは当然、誤解なわけであって、俺にとっては濡れ衣である。

その辺りは琥珀が茶化しがてらにセイバーさんに尋ねた所…



「いえ、私は士郎の剣です。」



という返答としてどうかなという答えのために救われた。

だが、不毛な追いかけあいのお陰で1限目は欠席と相成ったわけである。

しかも、語学であるから厳しい。

さて、再び成績に“可”でもついた暁には、ぼこ殴りにされそうなヨカーンである。



「はあ、全く…。」

「あ……、遠野くん?」



俺がため息をついた瞬間にかかる後ろから声。

今、俺は大学構内にいる。

そうなると声をかけてくる知り合いは、バカ有彦とシエル先輩と姫君、それに暴君ナイチチしかいない。

だが、この人を癒すような声はそのどれでもない。

となると……



「桜さん?」

「ふふふ…、おはよう。」



そこには我らの癒し系、間桐桜さんがいた。



「いえ、まあ色々あるんですよ。」

「そうなの?……何か相談事があったら――。」

「いえ、そんな大した事じゃないんでいいですよ。」

「……そう、また研究室に顔出してね。」



そういって桜さんはにっこりと笑った。

そのたわわな胸を揺らして。


さて、彼女について説明せねばならない。

間桐桜。大学でも清楚な美人として名の通った大学院生である。

俺がたまたま興味本位で覗いた民俗学のゼミにいた先輩。

ここでも何故か数少ない遠野志貴と交友関係を持つ女性の一人である。

ちなみに、普段から笑顔を絶やさないいい人なんであるが、時々性格が黒くなる日があるため気をつけなければならない。

またどうやら片思いをする人がいるらしいがライバルが強力ならしく、油断ならないとぼやくことを秋葉に話しており、珍しく秋葉とまともな交友が結ばれている。。

ちなみに民俗ゼミは桜さんとシエル先輩、そして俺、有彦、秋葉という見事に身内編成されたゼミである。

といってもフィールドワークの際、有彦は欠席率が高い。

また教授も桜さんを信頼しているのかまかせっきりなことが多いのである。



閑話休題



さて、大学構内にはいってとりあえず授業へと向かう。

すると……



「よ!社長出勤かよ。」



例の如く、悪友が声をかけてきた。

妙に軽やかな足取りだ。



「……ああ、やんごとなき事情があってな。」

「ふ〜ん。まあいいや。とりあえず次の時間代返頼むわ。」

「て、おい!!」



言うも早く、軽やかな足取りで有彦は去っていった。

あの浮かれ具合…



「合コンかなにかか?」

「ですかね?まったく乾君も節操がありませんね。」



独り言に返事が返ってきた。

それもさも自然な様子で。



「……先輩、いつから?」

「今ですよ。ちょうど、遠野君を見つけたんで。」



そこにはさも自然にいるシエル先輩。

俺の周りはこんな人ばかりである。



「で、何か用ですか?」

「もう、昨日アレだけ抱き合ったのにそっけないですねえ。」



その瞬間周りの温度が一気に下がった。

そう、コレが俺に友人が出来ない理由。

稀代の女たらしとして名を馳せる故に寄り付く人がいないわけである。

南無三……。



「まあ冗談は置いておきまして、お昼休みのお誘いですよ。どうですか?」

「はあ…。まあいいですよ。」



とりあえず俺の断る理由も気力もなかった。

おそらく店は十中八九、メシアン大学前店。

カレーを主食にカレーを食べる王女様のお誘いであるのであるから、それが必然に違いなし。

これもいつも通りである。

そういえば…シエル先輩にも彼、衛宮の事を話しておかないといけないのだろうなと感じた。






不毛な授業は一瞬で過ぎる。

といっても睡眠しているだけなのだが。

ちなみに秋葉お嬢様にこの様子を知られたら、折檻のA・R・A・S・H・Iである。

まったく古代ギリシャの某ポリスかと問いたいがそれすら出来はしない。

いともはかなき我が権力。

そんな大層むなしき事を考えていると特徴的な青い髪の女性が見える。

シエル先輩は早くもそこで待っていた。



「待ったかな、先輩。」

「いえ、大丈夫ですよ。それでは行きましょうか?」



そして俺たちはカリーの店へと向かうのである。





「え、あの魔術師が!?」

「ああ、うちの執事らしいんだ。」



今日は珍しくシエル先輩が極限への挑戦を行っていないため、落ち着いた食事が出来る。

いつもこうだと良いのだけど、そうもならないのが現実。

シエル先輩にとってはここのカレーを極限まで食べる事がカレーに対する愛らしい。

そのうち肌が黄色くなるとはアルクや秋葉談である。

まあ俺も嫌いではないが…出来ればやめて欲しいものである。



「そうですか…。敵ではないのですかね…?」

「え?」

「いえ、秋葉さんさらに琥珀さんなら素性が不明な男を雇うとは思えません。信頼が置けるということでしょう。」



そう言いながらもシエルのスプーンの進む速度は変わらない。

流石だな、と志貴は感心するのだ。



「それにしても…遠野くんがここまで人を嫌うのは珍しいですね。」

「え?」

「だって、怖い顔してましたよ。まるで怨敵に会った様な。」

「ははは、まあ否定できない所ではあるかもね。」



そういいながら志貴はカレーに手をつける。

ちなみにシエルはすでに10杯目に取り掛かっていた。

それでも今日はシエルはおとなしく食べているのである。







そんなこんなで志貴は家へと帰る。

夕焼け、坂道を登りつけばそこには魔の巣窟彼の家がある。

彼にとっては大切な実家であるのだから嬉しいはずではある。

たとえ、そこに未知のサイコガーデンがあろうと地下帝国が広がっていようと、コハッキーの魔の手が広がっていようと嬉しいはずだ。



「そう嬉しいのだ。」



何か思い出してイヤになってきたようだ。

その背中が煤けて見えるのは気のせいであろう。



「ただいま〜。」



返事がないことを知りながら、志貴は門をくぐる。

ちなみに大学に入ってから帰る時間が不定期なため、翡翠のお出迎えは断らせていただいた。

その代償として梅が嫌いになりかけた事もいい思い出である。

すたすたと庭を横切り――



「おかえりなさい、志貴。」

「ああ、ただいま……え?」



ふと違和感、大いなる違和感。

ばっ!!っと振り返るとそこには金髪の少女、そして右手には…



「竹刀?」



そう竹刀が握られていた。

だが本人は一向に気にしていないようだ。



「何か、可笑しいですか?」

「あ、いや…。違和感というかなんと言うか…。えっと……」

「セイバーです。」

「ああ、うん、改めて宜しく。で、何をしてるの?」

「いえ、私が出来るのは剣だけですので…見回りを。」

「ふ〜ん、宜しく……じゃなくて。確か、君は衛宮さんの……。」

「はい、士郎の剣として勤めさせていただいています。」

「じゃあ、仕事は?」

「はい、僭越ながら秋葉から庭の警備を命じられましたので。」

「はあ……」

「では、あと少し続けさせてもらいますので。」



そう言って凛々しき少女は去っていった。

やや呆気らかんとしながら志貴は見送った。



「そういえばすでに呼び捨てだったなあ。俺も秋葉も。」



だが不思議と違和感がない。

彼女は少女っぽいのにオーラがまさにキング。

何故か自分が庶民であることを痛感してしまう、自称庶民(実は御曹司)であった。



「まあ、思いの外に友好的だからいいかな。」

「あら、兄さん…、また触手を伸ばすんですか?」

「それもいいかな、ははははは………なにぃ!?」



冷気、殺気、恐怖。

解っている。そう志貴はもう理解している。

振り返れば奴がいる。

だから振り返りたくないんだが



「どうしました、兄さん。何かいいたいことはありますか?」

「まあ、落ち着け秋葉。」

「ふふふふ……聞く耳は…。」



真っ赤になった髪。

いや最近、本当に怒りすぎです秋葉さん。

志貴はそう思ったとか思ったとか思ったとか。



「持ちません!!!! すべて灰にして差し上げますわ!!」

「ぎにゃあああああああああっ!!!!」



叫び声が響き渡った。



「ふっ、無様だな。」



そのころキャベツを千切りにしている某執事がそうのたまったとか。


あとがき

というわけで導入段階という形です。

初日の志貴の始まる

幾分か設定が出てまいりまいた。

とりあえず一つ。


志貴の大学の皆様


大学院生 間桐桜
3回生   シエル
2回生   遠野志貴 乾有彦 弓塚さつき(志貴は知らず)
1回生   遠野秋葉 月姫蒼香 三澤羽居



こんな感じです。

出てくるかは知りませんけど。こんな感じで。


いわゆる独自設定となりますが、よろしくおねがいします。


追記

少し、桜に違和感をという意見があったので訂正しました。

ちなみに、桜は植物のお医者さんを……ていう方もいると思います。

そこはまあ現実は非常だったという事で。

でも別にそれを諦めたわけではなくて見たいな感じです。

まあその辺りの話はおいおい出せればと思っております。

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