さて、話は少しさかのぼる。



「……ん。朝か――。んー。」



そういって伸びをする男は衛宮士郎という。

赤みがかった髪の毛に少し気難しめな顔。

そして、身長は念願かなってか、奇跡の成長を遂げ、長身となった。

そうなったはそうなったで彼に問題が消えることはないのではあるが。



「先輩…?起きられたのですか?」

「あ、うん。 おはよう、桜。」

「ふふふ、おはようございます。」

「先に来てるってことは、朝食の準備は…?」

「バッチリですよ。」



そういって嬉しそうに笑う桜。

その様子は何年も連れ添ってきた夫婦のような会話である。

実際、高校の時からこのような会話を繰り広げているわけであるから、本人達にとってはいたって普通。



「む、そうか。今日は俺が用意する番だったのに……ごめん。」

「いいですよ、先輩。私は先輩をお世話するのが私の楽しみなんですから。」



そういってニコリと笑う桜。

――甘い、甘すぎる。

ガムシロップを一気飲みするくらいの甘さ。

それは衛宮士郎、5年ぶりの倫敦からの帰還から1週間の朝であった。








遠野家物語  〜殺人貴と正義の味方〜


第2話 遠野家に至る道〜冬木編〜




さて、衛宮士郎は約束の4日間の後どうしたのかというと凛と共に倫敦へと渡る道を選んだ。

当然、虎を始め、桜、ライダー(桜のため)、イリヤ、バゼット女史、カレン等からの反発を受けたのだが結局、凛が勝利したのかそうなってしまった。

ちなみに、セイバーはついていくという暴挙を成し遂げてしまったのがすごい所である。

そこで、運命の出会いが運の尽きとなるわけである。

そう、それは“北欧のわがまま女王”ことルヴィアゼリッタとの出会い。

彼は幾多ある並行世界の中で一番可能性のある(多分)執事ルートを取ってしまったようである。

ちなみに彼は時々、時計台にも顔に出すのだが、トラブルがトラブルを呼ぶ体質らしく某宝石のお爺様に玩具認定されてしまって楽しまれたそうな。

また、留学中の紫の錬金術師とも出会ったとか否とか。

まあ、そんな中で生き抜いて5年。

無事、遠坂凛は冬木に戻り、それに伴い衛宮士郎、セイバーも凱旋帰国と相成ったわけである。

ちなみに帰国に際してガンドガドリング(by北欧の女帝)を数十ポンドくらい帰国して数日は立ち上がれなかったとか。



帰国してみると、5年の月日は大きく、サーヴァントが出る町冬木市も大きく様変わりしていた。

例えば、間桐家は爺様が無事あの世へと旅立たれ、慎二はとっとと家を出ており、桜は衛宮家に入り浸る状態。

例えば、イリヤの体はこれも某人形師の渾身の作品のお陰で停止はなくなったとか。

例えば、カレンは教会の任務によりこの町を離れ、バゼットはカレンの盾として日々を過ごしているとか(ランサー&ギルッチはお供である)

例えば、柳洞寺ではキャス子に娘が出来ており、それがまた母に似つかないほど清純であるとか(本人の前で言うと一瞬でヘル)

例えば、アーチャーは相変わらず無職であるとか

というまあ、どんな並行具合をたどればここまでご都合主義的な流れが作れるんだと世界に問いたい流れだが、これもまた一興と思って流してもらえるとありがたいわけである。



長い状況説明終了



そんなこんなで、日本に帰ってきた衛宮くんも現在、無職。

それゆえ、家で家事にいそしむ毎日である。

当然、ここぞとばかりに



「堕落したな、衛宮士郎。」



と某弓が笑いに来るのだが、それはお互い様。

ちなみにこの5年で衛宮くんは背が大幅に伸びてしまった衛宮君。

そのため髪の色と肌の色を除けば姿格好は弓さんにそっくりでありその罵りあいはまさに兄弟喧嘩である。

ちなみに、キャス子娘には



「あーちゃーさんのパチモンさんですかあ?」



と無垢な笑顔で尋ねられ寝込んだ日が増えた事は内緒だ。

いとあわれ、衛宮士郎。



「うるせえ。」

「? どうかしましたか先輩?」

「いや、なんでもないよ、桜。」



そう言ってさわやかに箸を進める、衛宮士郎。

ちなみに横ではハムハムとご飯をかきこんでいるセイバー。

前ではまあまあねと言いながら食しているイリヤ。

斜め前で満足そうにご飯を食すライダー。

その隣に座るのはご飯の作り主桜。

そしてセイバーの横で食す虎。

5年前と変わりない風景である。

ちなみに赤い悪魔さんは朝の弱さで欠席である。

まあ普通に平和な日々であろう。



「で、お兄ちゃん、お昼からは何か予定があるの?」



不意に尋ねるイリヤ。

その表情に遊んで遊んでオーラがにじみ出る。



「んー、まあ家の掃除をして、昼の準備をして、買い物に出て、夕飯の支度をしてといったところかな。」



とまあ鈍い士郎はそのオーラには答えず完全にスルーなわけだ。

あっ、少しイリヤがむくれた。

ふと士郎は時計を見る。



「ん?桜。そろそろ大学なんじゃないか?」



そう、間桐桜は5年立った今でも大学生。

といっても大学院生である。

士郎が倫敦へ行った次の年に入学、そして4年通い卒業。

現在は大学院に進学済みとなっている。

当初、桜は植物関係の知識を生かした学部に行きたかったのだがそこは理系。

ところが桜は文系。そこで泣く泣く諦めたそうな。

それで一時は大学進学を断念するつもりだったのだが、士郎の助言でとりあえず大学へと進み適当に民俗学を選んだわけである。

しかし、そこの先生がまた強引なお人で押しの弱い桜をつれまわした挙句に大学院にいていたわけである。



以上、再度の説明終了。



「そうですね……でも……。」

「片付けは俺に任せていいから。行ってきてくれ。」

「すみません、お願いします。」



そういして桜は立ち上がり、礼をすると自分の部屋へと戻っていった。



「じゃあ、私も失礼させていただきます。」



すっと立ち上がったのはライダーだった。

ライダーも現在も骨董屋で契約社員として働いている。

やはり自分で生計は立てたいらしい。



そして残された虎、セイバー、イリヤである。



「じゃあ…俺は片づけを、と。……ん?」



その時何かに気がつく士郎。

その視線の先には…



「ん〜。士郎が帰ってきてくれたのはいいんだけど……このままじゃNEET…。」



ぶつぶつと呟いている虎。

どうやらトリップしているようだ。



「まあいつもの事だからしょうがないか。」



と士郎は流してしまった。

だが、コレが悲劇の引き金となるのであった。









「じゃ〜ん、コレ見て士郎。」



そういって得意げにプリントアウトされた紙を見せる虎。

時は夕食直後の団欒の時間。

茶をすすりながら一服としている時である。

朝のメンバー+赤い悪魔のフルパーティーの様相である。



「……なにさ、コレ?」



思わず問い返す衛宮士郎。

いきなりの話の展開に困惑気味である。



「だから、士郎あっちで執事やってたんだよね?だから!!」



そういって紙を士郎に突きつける。

それを改めて確認する士郎。

そこには……



「執事…募集?逆境にくじけない男子を求む…??」

「そう、このままじゃ士郎が“働いたら負けかなと思ってる”とかいいだしたら、お姉ちゃん切嗣さんにいい向けできないからねえ。」



そういって懸命に働いているか疑問なダメ教師が語る。



「そうね、私も士郎には大量にかせで欲しいわね〜。」

「わ…私は……その……」

「桜を守る人ですから、働いている事が望ましいですね。」

「……えー、お兄ちゃんと遊べなくなるから反対〜。」

「マスターたるもの、サーヴァントを養うべきであると思います。」



反応は様々だ。

まあ上の4人は仕方ないとして、最後のハラペコ王はどうかと。

どこで、どう某ミスカウンターの薫陶を受けたのか

しかし、まあ働く事は嫌いじゃないし…まあ執事という仕事も気に入っているしな〜、というような事を考えていた衛宮士郎。

が……



「…あれ?藤ねえ、これ住み込みじゃないのか?」



その瞬間に場は凍った。

む、俺何か拙い事言ったかと思った瞬間、もう遅い。



「ダメよ!!」

「ダメです!!」

「ダメっ!!」

「いけません!!」



この瞬間、4人の意思は固まった。

それぞれの思惑は絡み合いながらも。

だが、士郎はそのまま次の所を読んだ。



「で、雇い先は――遠野家? どっかで聞いた名前だな〜」



相変わらず鈍い士郎。

どうやら執事で鍛えたはずの勘は日常生活では全く機能していないようだ。

そして、金と言えば遠坂、遠坂といえば金。

その勘は冴え渡るらしく……



「ちょっと、貸してね衛宮くん。」



笑顔、だが早い。

そしてゲット&ルック。



「遠野――間違いない。これはあの遠野グループの…しかも、本家…。給料…月○○○万円!?」



だんだん、不穏な空気。

衛宮士郎の額から汗がにじみ出る。

他のメンバーもその様子を見て、冷や汗がたらり。



「それにこことコネクションを繋げば……ふっふっふっ。」



黙って、凛は士郎に紙を返す。

そして、素晴らしい笑顔で



「逝け、私のために。」

「なんでさ?」



思わずストレートな凛に思わずストレートに返すエミヤン。

あまりに欲望に忠実なリンであった。



「ちょっ!!姉さん!! いきなり!!」



思わず力強く反論する桜。

彼女としてはまだ士郎が帰ってきて1週間。もっと共に居たい訳である。

影でライダーも応援しているぞ。



「そうよ!!凛おうぼー!!」



ここぞと意見を被せる、イリヤ。

いまだ士郎分がまだ足りないようだ。

だが、セラがコレを聞いたら瞳からビームが出そうな勢いで睨まれそうだ。



「そうです、士郎は私のために美味しい……いえ、何でもありません。」



セイバーのセリフはあまりにありきたり過ぎたのか最後まで言えなかった。

凛と桜の姉妹による鋭い眼光が封じたから。

このままでは百日戦争



「とにかく、ここは士郎の意見を尊重しましょう。で、どうするの士郎?」



そこには得体の知れぬぷれっしゃーをかける凛の姿。

すでに右手はガントバズーカが装填済み。



「反対ですよね……先輩?」



そこはかとなく…どころではなく真っ黒な黒桜。

ああっ、セイバーが飲まれかけている。必死だ、必死で抵抗しているぞ。



「お兄ちゃん…反対しないと…。」



どこからともなく怒声が聞こえる。

今にもLosLosLos!!という声が響き、暴風で衛宮家が粉みじんになりそうだ。



「……どっちもタイガー道場逝きじゃねえか。」



そう思いながらも結論をだすのが衛宮士郎。

というかここで悩む事を続けられたら話が始まらない訳である。



「行くよ。だって、三咲町なら冬木から二時間だろ。それに、土曜の夜から日曜の夕方までは休日って書いてあるし。なら、帰ってこれるだろ。」



そう言って答える士郎。

しばしの沈黙。

まずったデッドエンドか、と思った瞬間だった。



「わかりました。先輩がそういうなら…。」



寂しそうに答える桜。

この辺少し大人になったのだろうか。

だが、そのさびしそうな顔は男が守りたいと思わせるポイントでもある。

いわゆる保護欲をそそる顔。



「むー。その代り遊んでね、お兄ちゃん。」



拗ねた顔のイリヤ。

昔から変わらぬ風貌でのアピール。

そこは抜け目なし。



「ああ、二人ともごめんな。」



少し悪い事したかなと思い謝る士郎。

流石にジェントルメンの国でもまれてきた事だけある。



「士郎、私のためにしっかりかせいでらっしゃい。」

「かねのもーじゃめ……。」



目が$になってる凛のお言葉に思わず本音がポロリ☆



「では、私はシロウの剣ですのでついていきます。」



そして、やっと黒い触手から解放されたセイバーがしれっと爆弾を投下する。



「「「だめーーー!!!」」」



当然の如く爆発する事になるわけである。

その後、再度のぷれっしゃーの掛け合い。

衛宮士郎のストレスは神武景気から不況を通らずに一気に岩戸景気へと突入。

ちなみにライダーさんは言い合いに参加するタイミングを失い手持ち無沙汰に茶をすすっていたそうな。

そして、虎は相手にされずに拗ねてチャンピオンの朝飯と言われるBEERを煽っており爆発まで数秒と言った所。

この後、衛宮君のストレスはさらにイザナギ景気へと突入することになるであろう。




そして、士郎は最後の一文を読んでから決めるべきであったことを追記しておく。



“打たれてもへこまない、しなる竹のようのな神経の束の持ち主求む。”


あとがき


という訳で、一旦過去に遡っての話になります。

とりあえずすっげーご都合主義だなと思った方、否定する要素は全くございません。

ですが、ギャグを主体にするんならいいかなあと。

細かい設定はとりあえずこの際無視してください(マテ

とりあえず冬木ではサーヴァントが未だに8体現存しています。

ちなみにギルッチは例の如くこんなギャグにつきあってられるかとチャイルドモードです。

それとサーヴァントと人間の間に子供が生まれるのか? ……生まれたようです。



とにかくもはや設定なんてなんのそのの世界ですからご容赦下さい。

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