「ああ……もう最悪!!」



そう言ってドスドス歩いているアスナ。

まさに不機嫌を態度で現してみましたという感じである。



「まあまあそんな怒らんでもいいやん。相手は子供やで。」

「それがおかしいのよ!!第一、なんで10歳の子が学校の先生をするのよ!!」



納得いかないといわんばかりに叫ぶアスナ。

どうやらさっきの言い合いがまだ頭の中に残っているらしい。



「そら、ネギくんが賢いからちがうん?」

「…………。」



木乃香のマイペースに流石のアスナも言葉を失った。

そうこうしているうちに自分達の教室は目の前、そのまま二人は教室に入った。




教室に入るとそこにはいつもの喧騒状態。

ある者は友達としゃべり、ある者は本を読んだり……

そして……



「こんな感じだね♪」

「いひひひ……。」

「本当に大丈夫なんですかねー。」



トラップを仕掛ける者がいたり。

アスナは改めて自分のクラスを見回す。

そうするとこのクラスには様々な子がいる事を再認識させられる。

数が多い留学生やら何から何まで…。



「……大丈夫なのかな、あの子。」



何となく少年に同情したくなったアスナだった。







魔術師は子供先生!?



2時間目 子供先生の初授業







一方でネギの方もしずなにつれられてクラスの前へと到着した。


(……しかし狸だなあの爺さんは)


ネギは冷静にそう考えていた。

沢山いる留学生。学園長の孫。これだけでも精一杯といえる。

出来れば避けたいようなクラス。

そんなクラスで実習するのだ。



「これも試練か。」



これからも色々なトラブルに巻き込まれると思う。

だが、それがサウザンドマスターにつながるならとネギは考えていた。



「私もサポートしますから頑張ってくださいね。ネギ君。」



ネギの独り言を聞き逃さなかったのか、しずなが反応する。

指導教員ということ抜きにして困った人をほっておくことは出来ないという性格なのかもしれない。



「あ、口に出していましたか。コレは気をつけないと。」



そう言って笑顔を作るネギ。しずなも笑顔を返した。



「早く、名前を覚えられるといいですね。」



それに肯くネギ。だが、実際はすでに全員の名前、顔の特徴を把握している。

この辺り魔術学校の主席の面目躍如である。

そしてネギは目の前の扉をノックをし、ドアを開けた。

次の瞬間、頭上からの落下物を感じる。

それを――ネギは軽いバックステップでかわしてしまっていた。




一方、教室内部でもノックの時点で、新たな先生……ネギの到着が知らせられた。

注目が前のドアに集まる。

そして入ってきた男の子は……黒板消しトラップを避けた。


(かわした!?)


それを見たアスナは軽い驚きを禁じえなかった。

ネギはドアを開けた時点で恐らく頭上の黒板消しに気がついてなかったはず。

なのに軽くネギはかわした。

だが、アスナの驚きはそれ所ですまなかった。



「黒板消しトラップ、と。続いて…」



そう言いながら教卓の方へ向いて歩くネギ。

視線は明らかにコッチに向いている。

だが、鳴滝姉妹のトラップはここからが本番。

まずは足を引っ掛ける縄…。

しかし、ネギはこれも軽く飛び越える。



さらに続いて上から降ってきたのはバケツ。

それもわずかほんのわずかではあるのだがバックステップをしてかわす。

バケツは標的に当たらず水だけがあたりに撒き散らされた。



そして最後におもちゃの矢。

的確に頭へと向けられたものだった。

だが、それも偶然、下を向いたネギの上を通り抜けていった。

いや、傍目からはそう思えたかも知れないが、アスナはネギが矢の軌道を読んでかわしているように見えた。

しかし、目の前の少年はそれをさも偶然のように



「あれ、今日は運がいいみたいですね。全部外れてくれましたね。」



と言い切った。





ネギにしてみればこの程度の罠は普段から受けている。

それが魔術学校でのネギの日常だったから。

ある意味では思わず動いたのが半分といったところ。

だが、別に元々いろいろな意味で注目されている人間。

それで反応が見られるのではないかと考えた。


(なるほど…かなりの人数が反応しているか。まあ分かっていた事だがあのジジイめ)


ネギには珍しく悪態をつきながら教卓の後ろに立つ。

クラスのほとんどの生徒は先ほどの出来事、そしてネギの風貌やら雰囲気やらに呑まれて黙っていた。

また、何故自分達の目の前に子供が現れたのかという事が把握できないのでもあろう。

普通に考えて子供が教師をするなんてありえない。



「また随分派手な事をして……とりあえず自己紹介をお願いします、ネギ先生。」



しずなは少し呆然とした表情の教室に一石投じるように告げる。

それをうけてネギはチョークを持ち名前を黒板に書いた。



「今日からこの学校で英語を教えることになったネギ=スプリングフィールドです。3学期の間だけですがよろしくお願いします。」



簡単であるが自己紹介をする。

そして、笑顔を浮かべた。

一瞬の沈黙。

皆が自分の頭の中でその情報を整理しているようだ。

そして、その情報処理が終わると同時に――



「「「かわいいーーー!!」」」



一斉にネギの周りに人だかりが出来た。



「ねえねえ、何歳なの〜〜!?」

「一応、今年10歳です。」

「どっから来たの!?」

「ウェールズです。」

「ウェールズってどこ!?」

「皆さんで言う所のイギリスの一部ですよ。」

「今どこに住んでるの!?」

「まだ、住居は決まってません。」



といったように怒涛の如く質問を浴びせる生徒。

だが、ネギもそれにいちいち答えていっていた。

それを見ながら、自分の席にいた眼鏡に軽いブラウンの少女、長谷川千雨はしずなに



「……マジなんですか?」



と聞いた。

その問いかけには信じられないという意思が込められていた。



「ええ。マジなんですよ。」



その問いにシズナは笑みを浮かべたまま答えた。

ネギへの質問はその間も続く。

だが、ネギは顔色一つ変えずに質問に答えていた。



「頭、いいの!?」

「一応、大学卒業レベルの学力は。」

「スゴーーイ!!」



その時だった。ツカツカと歩いてきて、アスナが教卓を叩いた。

一瞬、全員の注目がアスナに向く。



「ねえ、あんたさっきの本当に偶然!?何かおかしくない!?」



そうネギに言い放つ。

やはりアスナにはなっとくいかない部分であったのだろう。

大の大人でも引っかかる悪質なトラップ。

それを子供であるネギがあそこまでの動きで、全て流れるようにかわす。

現実的にありえない。

しかし、それに対して



「いや、本当に偶然ですよ。」



そう言って爽やかな、しかし、いかにも作った笑みを浮かべるネギ。

笑顔でそれ以上の議論を封殺しようとしているのだろうか。



「本当に!?」



そう言ってアスナはネギに掴みかかった。

周りからはヤレヤレだとか、いきなり教師に暴行!?とかいったフレーズが飛び交っているがその顔は一様に笑顔である。

どうやらかなり変わったクラスであるらしい。

しかし、その時、バンっバンっ!!という音がなり



「いい加減になさい!!」



という声が響いた。

それはよく通る凛とした声。



「皆さん、席に戻って。先生がお困りになってるでしょう。」



そう言って生徒を諫めるきれいな金髪の女生徒がいた。

委員長であり出席番号29番の雪広あやかである。

彼女は優雅な微笑を向けると、アスナへと視線を向けて



「アスナさんもその手を離したらどう?」



そう挑発とも取れる言い方でアスナを嗜めた。



「…何ですって?」



それにギロッという効果音が似合いそうな勢いであやかの方を向くアスナ。

あやかの意図と反して安っぽい挑発に乗ってしまったようだ。

それに気がつきながらも、あやかは出来るだけ穏便に続けようとする。



「教師に手をあげるのは好ましい話じゃないという事です。では、どうぞHRを続けてください。」



そう、彼女は言ってのけた。

あくまでも優雅に――そんな言葉がよく似合う光景。

背後に花でも浮かんでそうな雰囲気だ。



「委員長、あんたなにいい子ぶってんのよ。」



ネギを離しながら、アスナが逆に挑発の言葉を言う。

少し呆れたような、いつものノリはどうしたといった表情ではある。



「そんなことはないですよ。それよりも貴方の方こそイライラしすぎじゃありません事?」



それに乗らない委員長。

だが、アスナはニヤリと言う笑顔を浮かべる。

それは何かを思いついた意地の悪い笑みだ。



「何がよ!このショ・タ・コ・ン。」



まるで委員長の心を見透かしたような一言。

だが、その挑発も…



「何とでもおっしゃってください。気が済んだらお手を離しなったら?」



どことなくイライラした雰囲気ではあるが、冷静に指摘する。

その様子に何かおかしいと感じたのか、アスナは委員長の方をじっと見た。

しかしあやかはそのまま少し見つめると席についてしまった。



「……分かったわよ。」



ここまで言えばいつもなら乗ってくるはずなのに…そう思ったのだろう。

どことなく釈然としない表情ながら手を離したアスナは席へと戻った。



「さあ、皆さんも席についてください。」



その言葉に周りではやし立てていた生徒も中断されたのをみてとりあえず席へと戻っていく。

全員が席に着き、ネギの方を再び注目した。



「では、早速はじめましょう。教科書128ページを開けて。」



そう言ってネギは授業モードに入った。



ネギの授業が始まる。彼は出来るだけわかりやすく説明をし、さらに時に生徒を笑わせ、時に考えさせながら授業を展開していった。

若干、黒板の上のほうが届かず、真ん中より下に板書が目立つが、それもご愛嬌といったところだろう。

その中で…


(あいつ……絶対、あやしいわ…。)


アスナは一人考え込んでいた。


(確かめて…ここから追い出してやる!!)


そう思い、消しゴムを高速で飛ばした。

速度からして尋常ではない。

周りの席の生徒は何事かと思いアスナを見る。

だが……



「えっと…教科書のここかな?」



と頭を下にさげたところに消しゴムが飛ぶ。


(なっ!!運がいい奴め!!)



「なにやっとん、アスナ?」

「これなら……!!」



第2弾を発射する。しかし



「えっと次はこっちかな?」



そう言ってネギは右に動いた。そこを消しゴムが吹っ飛ぶ。

当たらない。流石に熱くなってきたアスナ。


(次こそは!!)


更に消しゴムを打ち込む構えをした時だった。



「…じゃあ、次は神楽坂さん。」



不意にネギに当てられるアスナ。



「えっ…?」

「アスナ、あたったで。」

「え…ええ!?」

「話聞いてませんでしたか?」

「え…あ…。はい、すいません。」



次の瞬間クラスが笑いに包まれる。


(おのれ……このガキめ!!)


アスナはさらに決意を固めたのであった。






授業が終了し、ネギは職員室へと帰っていった。

それを見た上でアスナは周りを見回す。

そして、目的の人物を確認し、近づいた。



「ちょっと、委員長?」



その人物、委員長である雪広あやかは次の授業の準備をやめてアスナのほうを見上げた。

その様子は普段の委員長そのものである。



「どうしました、アスナさん。」

「なんで、アイツに反応しなかったのよ?」

「アイツとは?」

「あの子供先生のことよ!」



それを聞いてあやかは少し表情を歪めた。

その様子を見て、アスナはさらに質問を続ける。



「あんた、子供好きだったじゃん。いつもなら目を輝かせて『ネギ先生〜♪』とか言いながら追っかけてそうなのに。」

「あなたは私のことをどう思っているのかしら?」

「しょたこん。」



今度はあやかも限界だったのか机をバンと叩く。

アスナをキッと睨みつけた後、不愉快であるといわんばかりに教室から出て行ったのであった。

あくまでもアスナとの喧嘩には応じないのか本当に怒っているのか。

あまりの剣幕に普段なら茶化すはずのクラスも一瞬静まり返った。



「アスナー、今のはあかんで。」



それを見送るアスナの後ろに流石に見かねた木乃香が立っていた。

いつの笑顔とは違い少し怒った顔で。



「何よ!今のは――」

「人には言ってもいい事と悪い事があるし、言ってもいいタイミングと悪いタイミングがあるやろ?」



優しく、だが決然と諭す木乃香。

それを聞いて少し考えるアスナ。そして、そっぽを向きポツリと告げた。



「……あとで謝っとく。」



それを聞いて木乃香は笑顔に戻った。

その後すぐにクラスはもとの喧騒を取り戻したのであった。






一方の委員長は洗面所で手を洗っていた。

その動きも早く、イライラしているのが見て取れる。

そして、自分でもそのイライラが不本意なのかさらに感情が高ぶっていく、その時だった。



「私もらしくないと思うわ。」




不意に掛けられる優しい声。

あやかの横に一人の少女が現れたのだった。

その声の方に顔を向けるあやか。



「千鶴さん…。」

「話聞くわよ、あやか。」



そこには立っていたのは那波千鶴だった。彼女は慈しむような笑顔で立っていた。

少し考える表情をするあやか。しかし、最終的には決心をしたのかため息を一つつき



「屋上に行っても良いかしら?」



そう告げたのだった。






「アスナさんの言いたかったことはよく分かるわ。自分でもらしくないと思いますから。」

「そうね。ネギ先生見たいに顔も素敵で頭もいい少年ってあなたの理想だもんね。」

「そう、理想のタイプなんですけど……あの人はダメですわ。」

「ダメ?」



それを聞いて思わずあやかの方を向く千鶴。

あやかの目線は校庭の方をボンヤリと見つめたままだった。



「右目の包帯とか?」

「いいえ、そんなことじゃありませんわ。何といいますか……あの笑顔が拒否反応を示すんです。」

「ふ〜ん、笑顔ねぇ〜。」



少し考え込む仕草をする千鶴。

あやかは自分の生まれる事のなかった弟を重ねるようにして少年を愛でる傾向にある。

そして、ネギ=スプリングフィールドは彼女の弟に重ねることは出来ない存在なのだろう。

それは薄々と彼女がネギという少年の内面の何かを感じ取っているのかもしれない。



「いつも通りクラス委員としての責務はしっかり果たしますわ。ネギ先生自身が悪いわけじゃないと思いますし。」



そう言うとあやかは目線を校庭から離した。

そして、屋上入り口の方に向き直る。



「そろそろ次の時間が始まりますわ。戻るとしましょうか。」



一歩踏み出すあやか。

感じ取られる雰囲気は先ほどまでのイライラした雰囲気とは違いいつもの無駄に豪華な雰囲気に戻っていた。

それを感じ取ってもう大丈夫と千鶴は感じる。彼女と共に教室に戻るべくついてそちらの方を向いた。

そして歩き出そうとした時――



「ありがとう、千鶴。」



一言そう告げた。そして、すたすたと歩き出す。

千鶴と呼ばれたのはいつ以来の話だろう。

そんなことを考え、少し笑顔を浮かべた千鶴だった。


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あとがき



という訳で第2話です。

この辺りも改定前の話が少し残っていますが後半を思いっきり変えました。

何となくこのネギを委員長は好きにならないんじゃないかと感じましたんで。

という訳で、あやかとネギの関係はかなり変化すると思います。


さらに何となく見え隠れする千鶴の存在。

これは改定前の設定にもあったものを前倒しでもってきました。

千鶴とあやかの関係はまたおいおい出てくるのではないかと思います。

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