委員長に、謝りに行った時はいつもの彼女だった。

それはいいんだけど納得はいかない。それもこれもあのガキが先生になった所為としか思えなかった。


(正体を掴んでやるんだから)


そんな事を考えながらふと前を向く。

すると例の子供先生が何かに反応していた。



「……ん?あれ、あいつ……」



呟いた瞬間には、あの先生は走り始めていた。

そして、本屋ちゃんをダイビングキャッチ。

その上で……



「大丈夫ですか、宮崎さん?」



なんて発言していた。

この大人びたクソガキが――じゃなくて。

次の瞬間、子供先生を捕まえてダッシュ。



「ああああ…あんた超能力者だったのね――!?」

「いえ……。」

「誤魔化したってダメよ!!目撃したのよ!!現行犯よ!!」



そう、距離にして10メートル以上。

本屋ちゃんの落下速度以上のスピードで走るなんてありえない。


(締め上げてでも吐かせてやる!!)


そんな勢いで問い詰めようとした時だった。



「そんなに無理なことでしょうか



勢いに水を差すように子供先生は冷静に告げた。

その瞬間に少し止まってしまった。

子供先生はそれを見逃さずに次の言葉を継ぐ。



「例えば、クラスメイトの方とかどうですかね?」

「う……。」



古菲とかでもやりそうだとか考えてしまった。

それが運の付きだったのだろう。



「僕も高畑先生の下で武術を習いましたので…。」



そんなこんなで有耶無耶にしようとする子供先生。

だが、それでも何かが違うと感じる。

その直感を自分は信じる事にした。



「それだけじゃないに決まっているわ。」



そう言って子供先生の目を見据える。

そして、端的に尋ねた。



「で……あんた何者?」






魔術師は子供先生!?



3時間目 夕焼け





正直に自分の失敗と認めざるをえない。

前方で生徒である宮崎のどかが落ちていくのを見て、何故か身体が動いていた。

しかも見ている生徒がいたにも関わらずだ。

さらに運が悪かったのは、そこにいた生徒が神楽坂明日菜であったこと。

もう一人監視役がいたがこれは裏の人間。いずれバレルから問題ない。

その神楽坂明日菜は今、自分を見据えている。

正体を言えといわんばかりに。

これ以上の誤魔化しは不可能、そう感じてため息をついた。



「そうですね。魔術師…というべきでしょうね。」

「ま…魔術師?あんた……」

「こうなった以上、きっちり説明します。そうですね。そちらに隠れている長瀬さんも出てきてください。」



ネギは少し大きな声で呼びかける。



「え?」



アスナは周囲を見回した。

人は自分とネギ以外いないはず……そう思っていた。

だが……



「……ふむ。まだまだ修行が足りんようでござるな。」



そう言って左の木から長身の少女が現れた。

その様子に悪びれた様子はない。



「別にそう卑下するものではないですよ。僕でも貴方を知らなければ感知していなかったでしょうし。」

「なるほど…。これはネギ坊主は思った以上に使い手でござるな。」

「嘘…私全然気付いてなかった…。」



そう言って一人落ち込むアスナ。

しかしすぐに調子を取り戻し、ネギをぐっと睨む。

その様子をみてもネギはたじろがない。むしろどんどん表情が消えていった。



「さて、こうなった以上説明しますよ。僕のことを。」

「絶対してもらうわよ!!」

「拙者も興味があるでござるな。」



その二人を見て、目をつぶりため息を一つつくネギ。

そして、再び目を開け、二人を見据えた。



「先ほどもいいましたが僕は魔術師です。」



そう言ってネギは右手を掲げた。

同時に一言だけ詠唱した。



――――投影、開始( トレース オ ン)



それと同時に現れる一振りのナイフ。



「な……。」



一瞬の出来事。

アスナは息を呑んだ。

まさか絵空事の魔術師が実際に存在しているなんてという表情。



「といっても半人前の魔術師というべきでしょうね。」



そう言って少し自傷気味の笑顔を浮かべるネギ。

同時にナイフは何もなかったように砕け散った。

魔力を通すことをやめたのである。



「……この学校に来た理由は修行でござるか?」



未だ復活しないアスナに比べて、見た目から冷静な楓が尋ねた。



「正式には魔術学校の卒業課題ですね。」



数分の沈黙が流れる。

そして沈黙を打ち破ったのはアスナだった。



「大体事情はわかったわ。納得しかねるけどね。」



ため息をついてそういうアスナ。

未だに敵意をむき出しの状態である。



「で、こんなこと拙者らにしゃべってもよいのでござるか?」



それに続いて楓が発言する。

これはアスナのことを指している。つまり一般人にこんな事を話してよいのかと聞いているのであろう。

その裏にはネギがどう対処するかを見ているというべきであろう。

それを思うと、これも学園長の罠ではないかと勘ぐりたくもなってくる。

ともかく、分からない事はどうしようもないと思う。



「無論ダメですよ。現状の仮免を没収された上連れ戻される。最悪の場合なんらしかの動物にされてしまうこともあります。」



淡々と言うネギ。

とても焦っている雰囲気ではなく、どこか他人事に話す。



「なっ!!そんな大事なことを私らにしゃべっていいの!?」



驚きの声を上げるのはアスナ。



「見られたからには仕方ないですからね。他の人に黙っていてもらえると助かります。」

「もし、しゃべるといったらどうするの?」



アスナが挑発的に聞く。

様々な恨みがあるんだからという表情から彼女は仕返しの機会とでも思ったのかもしれない。

だが、それは相応の報いをもって返ってきた。



「その時は……。」



次の瞬間、周辺の温度が一気に下がる。

いや、ネギから発せられる殺気というべきだろうか。


(な…に……?)


蛇に睨まれた蛙の如くアスナの動きが完全に止まった。


(まさかこれほどとは……。)


楓も顔こそそのままであるが冷や汗を流し始めた。

自分は彼の実力を測ることが任務である。

だが、高々10歳と考えていた甘さを知らされた結果となった。



「僕はあまり出来の良い魔術師でないので記憶を消すなんて器用な真似は出来ません。存在自体を消させてもらいます。」



その言葉に感情はない。

そして唯一見ることが出来る左目からは溢れんばかりの殺気がにじみ出ていた。



「わ……わかった。」



アスナは何とか口からその言葉を搾り出す。



「わかったでござる。」



流石の楓の声も震えていた。



「お願いします。手荒な真似はしたくないんで。」



同時に消える殺気。

安心したのか、二人は思わずため息をついた。



「そろそろ下校の時間ですね。」



その言葉に二人はハッとする。

そうこの後企画されていたイベントのことを思い出す。

草むらに落っこちているのはコンビニの袋。

流石にあの後には言い出しにくいような表情をしあう二人だった。

そして意を決したのはアスナの方だった。



「ちょっとこの後つきあってほしいんだけど……暇?」



すこし怯えながらもネギにたずねた。









「「「ようこそ、ネギ先生!!」」」



教室で歓迎会。

ともあれ、彼女達には馬鹿騒ぎさえ出来ればそれでオールオッケなのかもしれない。



その掛け声と共にクラッカーの音が鳴り響く。

アスナと楓につれられて教室に入ってすぐの事であった。



「……どうも、ありがとうございます。」



歓迎会というものを開かれるとは思っていなかったらしく。

一瞬、驚いた顔をする、しかし、最終的にはいつもの笑顔に戻った。



「ほらほら主役は真ん中。」



それに満足したように一人の女生徒がネギを引っ張っていく。

出席番号3番の朝倉和美。

快活ではあるものの何か企んでいそうな笑顔を浮かべた少女である。



彼女に手を引かれてネギは真ん中につれていかれた。



「何やっとったん?」



それを横目に見ながらこのかがアスナに尋ねた。

その表情に少し心配の色が見える。



「ちょっと…色々ね。」



アスナはそう言って言葉を濁した。

そうあの出来事は誰にもいえないそう考えたからだ。

このかに適当に相手をして一人少し宴の輪から離れた。

ふと周りを見回す。そこには高畑やしずなの姿もあった。


一方で、皆に囲まれて終始笑顔を浮かべているネギ。



「あ、あの……、ネギ先生?」



そのネギに声をかけてきたのはのどかだった。

表情は相変わらずの前髪で見えない。

しかし仕草から明らかに緊張していることが分かる。



「何でしょうか、宮崎さん。」



ネギは敵意を出来るだけ見せないようにしてのどかの方を振り向いた。

そのネギの顔を見て一瞬、ビクッと反応するのどか。



「あ、あの〜。」



躊躇する様子が身体全体から滲み出ている。

それでも意を決したように頷き



「さっきは、その……、危ないところを助けて……、いただいて――あの、ありがとうございます。」



そういうとペコリと礼をする。

それを見てネギは一瞬驚いた顔をし、そして微笑んだ。

だが、のどかの緊張はそれでもどけず。



「し…失礼します!!」



そう告げるとネギから即座に立ち去った。

同時に周りからは囃し立てる声が響く。



その光景を見て、また高畑に視線を戻したアスナ。


近くに高畑先生がいるのに心が少しも躍らない。


その事に気がついてアスナは一つため息をついた。





「安心するでござるよ。」



その時、不意に横に気配がした。

そこにいたのは楓。

自分と同じ秘密を共有している唯一の人物である。



「ネギ坊主は本気で拙者らを消す気はないでござるよ。」

「え……?」

「本気ならすでに消されているということでござる。」



そう意味深な言葉を告げて楓はネギの方に向かった。

そして、先ほどの出来事などなかったかのようにクラスメイトと共に騒ぎ始める。

自分がこんなに悩んでいるのに能天気なのか、大物なのか。

そう思いながら視線を少し移動させると再びネギが視界に入った。

そのネギを見ると先ほどのあの目を思い出してしまう。



「本当にそうだといいんだけど…。」



そういいながら一つ身震いをする。

そうアスナは自分の不安を消しきれずにいたのだ。

再びため息をつき、沈んだ気分の自分に気がついた。



「どうも…こんな気分じゃないわね。」



現在の雰囲気に会わぬと判断したアスナは部屋からそっと出ることにした。








ふと外を見ると夕焼け空。

その中でアスナは今日を振り返っていた。

そうネギという少年のことを……



「怖いですか、僕が?」



不意に後ろから声がかけられる。

思わず後ろを振り返る。

そこにいたのはやはりネギ。



「……そりゃ、あんなことを言われて怖くないはずないでしょ。」

「そうですね。すこし脅しが過ぎたかなと反省しています。」



そう言って少し笑顔を浮かべるネギ。

だが、その優しい言葉にどれほどの感情がこもっているのだろうか。

それは右目に巻かれた包帯と相まって酷く悲しげなものに見えた。

その時、ふとアスナの脳裏に思い浮かんだこと。



「ねえ……あんたなんで魔法使いになろうとしてるの?」



それをアスナは思わず聞いてしまった。



「……魔法使いではありません。魔術師です。」

「……一緒じゃないの?」

「いいえ、違います。魔術というものは今で言う科学なんかでできるものなんです。一方で魔法とは現在でも全く不可能なことを可能にするものです。」

「……何となく解かった。じゃあ、なんで魔術師になるの?わざわざ日本まで来て?」

「人を探してるんですよ。千の魔術を使い、伝説の5人の魔法使いの一人゛サウザンド=マスター”という人を。」



そう言ってネギは窓から空を見上げた。



「その人は死んだといわれてますがそんな気はしないんです。そして、その人を見つけるためにはこの道が一番早い、それだけですよ。」

「ふ〜ん。」



その理由に頷きながらアスナはネギの顔を見た。

先ほどと違い、その表情から笑顔は消えていた。その表情は無表情。

ともかく、彼は彼なりの理由でここにいることがわかったとアスナは思った。

得体のしれない部分が減って少し落ち着く。

少し軽口を叩いてしまった。



「でも魔術を使えるのって便利ね。」

「そんな事ありません。……魔術は万能じゃありません。むしろ災いになることもありますから……。」

「え?」



災いという言葉に思わずネギを見る。

先ほどまで無表情に戻っていたネギは何故か笑顔を浮かべていた。

何故、こんな子供がこんな悲しい笑顔を浮かべるのだろう。

次の瞬間、アスナは何故かネギを抱きしめていた。



「どうしましたか、アスナさん?」

「……なんであんたそんなに悲しそうな笑顔を浮かべるの?」

「笑顔、か……。」



そう呟くとネギは目をつぶった。

しばらく二人は無言のまま、アスナに抱かれるネギという格好でいた。



――だが、次の瞬間。

パシャ!パシャ!という音と共にフラッシュが光る。



「えっ?」



そしてそちらを向くと、カメラを構える朝倉和美。

そして嬉しそうにこちらを見る鳴滝風香、椎名桜子、超鈴音。



「えっ……?」



朝倉和美は笑顔をアスナに向ける。

一方のアスナはしまったという顔をしていた。



「えへへ、こりゃ早速、スクープかな?」

「ちが――」

「禁断の恋、子供先生を射止めた女子生徒とか?」

「ご、誤解よ!朝倉っ!!」

「大スクープアルネ。」

「アスナ・・・あんた委員長の事いえないにゃ〜。」

「先生と恋愛なんて大人ですぅ〜。」

「言い逃れは見苦しいよ、アスナっ!!!」

「違ぁぁぁぁぁう!!!」



同時に、アスナは爆発した。

そして、写真を写した一同に吶喊していく。



「賑やかな人だ。」



そう言ってネギは夕日を見上げた。

その時、ふと、後ろに気配しネギは振り返る。

そこには、いつの間にか高畑が立っていた。



「やあ、ネギくん。初日の授業はお疲れ様でした。」



そう笑顔で告げる。それと同時に高畑はそっとネギに何かを手渡したのであった。

その微妙な笑顔と共に。



こうしてネギ先生の一日は夜の訪れと共に終わる。

そして、もう一つのネギの仕事が待ち受けていていた。



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あとがき


というわけで改訂版3話でございます。

今回もベースは改定前と変わらず。

ただ委員長の立ち位置とネギの性格の改変が主になっています。

あと、のどかについて。

のどかももう少し本編と同じく絡ませていこうかと考えていますので。

ちなみにのどかとネギの関係も少し変化を加えると思います。

次の話は前回にない展開、といいますかあの二人を早い目に登場させる事になると思います。

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