「卒業式授与―――ネギ=スプリングフィールド君!!」
その掛け声に一人の少年が前に進み出た。
未だ年端も行かぬ年齢の少年。注目を集めるその少年がこの学年の主席のようだ。
「この5年間よく頑張った。だが、これからの修行が本番だ。気を抜く出ないぞ。」
そう言われた後、少年は証書を手渡された。
「はい。善処します。」
そう言って受け取る少年は端正な顔だちながら表情を一つも変えなかった。
また、周りからの視線も羨望や諦めの視線。
生徒達のほとんどが若すぎる卒業生主席を快く思っていなかった。
さらには彼の容姿にも問題があるのかもしれない。
少年の右目には白い包帯が巻かれていた。
そして、残る左目も周りに対する興味や親しみといったものが一切感じられないものであった。
魔術師は子供先生!?
プロローグ 魔術学校卒業
さて、その後の校長室。
そこに先ほど主席として名前を呼ばれていた少年――ネギ=スプリングフィールドがいた。
あの卒業式の直後の事である。
ネギの姉と幼馴染の少女が学校長にネギの卒業課題の再考を提案した挙句に姉が気絶した。
その状況を見た学校長はとりあえず近くの自分の部屋のソファーにネギの姉―ネカネ=スプリングフィールドを寝かす事を提案した。
そしてついでにネギを校長室に招きティータイムという状況に相成ったのである。
同時に誘われた少女―アーニャは遠慮しているのだった。
「それで……どうかね。正直の所は。」
先ほど、学校長は頑張ってくるように言い、それにネギは答えた。
それでも心配といえば心配なのかもしれない。
「校長も冷血漢の僕には教師は無理だと?」
「別におぬしが教師をすることには心配しておらんよ。我が校の主席殿じゃからな。」
ネギのアーニャの“ネギみたいな冷血漢には教師は無理”という抗議。
それを受けて言った皮肉を学校長は軽くいなす。
そして、さらに皮肉を投げ返した。
「その主席もコネクションと言われていますが?」
「ほお。それはそれは。」
そう言ってネギと学校長はシニカルな笑みを浮かべあう。
事実、ネギの魔術の実技面の成績は最低に違いない。
だが、知識、実戦の面では他の生徒を完全に凌駕しているという点も事実なのだ。
しばしの沈黙の中、二人が紅茶を飲む音だけが響く。
「それで、日本という島国に行くのは……やはりか?」
「……ええ。と、いいますか、校長でしょう?取り計らって下さったのは?」
ネギの伺うような視線。だが、それを受けても校長の表情は一つも変わらない。
再びの沈黙。だが、ネギが先に折れた。
「まあ、いいです。とりあえず校長の顔に泥を塗らない程度には教師もしてきますから。」
そういうと、ネギは椅子から立ち上がった。
「姉さんは後で迎えのものを遣しますんで起きるまで寝かせといてあげて下さい。」
校長に一礼し、ドアに向かう。
そこで振り返った。
「お茶ありがとうございます。それでは失礼します。」
「うむ。気をつけてな。」
一瞬、目が合う二人。だが、ネギはさして気にしない様子で部屋から出て行った。
「……さて、そろそろ起きても良いぞ。」
「あら、お気づきでしたか。」
ネギが出て行ったことを確認し、学校長はネカネに声をかけた。
どうやらネカネも起きていたようだ。
「ネギも気づいておったじゃろうて。あそこまで早熟な子供は始めてじゃ。」
そう言いながら遠い目をする。
メディナ魔術学園の校長。魔術師が多いとされるケルト圏で魔術学校の校長をするほどの男。
その彼からして早熟であるというネギ。
だが、それを聞いてもネカネは少しも嬉しそうではなかった。
「……やはり、あの子にはあの人のことしかないのでしょうか?」
「残念じゃがそのようじゃな。学校でも、また話によれば戦場でも淡々と過ごしている。おそらく彼にはどうでも良い事なんじゃろ。」
その言葉を聞いてネカネはさらに表情を曇らせた。
そして、うつむき自分の足を見る。
「……やはり私が。」
「それを言っても詮無き事じゃ。それにわしがただネギを日本に送るなら教師などにせん。」
そう言って学校長は窓の外に視線を移した。
「何か……彼も学ぶじゃろ。あの地で教師をすることで。」
「そう――ですね。」
そう言ってネカネも学校長と同じ方に視線を向けた。
その視線の先には歩くネギとそのネギに歩み寄って何かを話しているアーニャがいた。
これが、魔法使いネギ=スプリングフィールドの始まりの物語であった。