俺たちは、前を目指し、走る。

おそらくもう、時間はごくわずか。


……だが。 間に合わせてみせる…!


そう決意しながら走っていた時だった。



「…っ止まって下さい!」



有無を言わせないセイバーの言葉に、俺たちは急ブレーキをかける。

そこですかさず、走ってきた勢いを殺さずに彼女が前に出た。

同時に、風を切って投げられた何かがセイバーにせまる。

それをセイバーは風王結界で迎撃した。

キンッと甲高い音を立てて弾き返されたそれ…ダガーは、持ち主のもとへと引き戻される。



「不意打ち……危なかったわね」



凛が、思わずため息を殺す。

セイバーの制止がなければ、どうなっていたかは…想像に容易い。



そして、油断なく身構えたセイバーの前に、一人の女性が現れた。




「ライダー…。」



桜のサーヴァント。

彼女は、相変わらずの眼帯のおかげで、その表情を伺う事は出来ない。

ここを通り抜けていくしか、桜のもとへ行く道はない。 そう考えた俺が剣を投影しようとした、その時だった。



「エミヤシロウ、トオサカリン。…あなた方は通すように、と言われています。」



ライダーがそう俺たちに告げた。


赤き弓の戦


第14話 共闘





一瞬、その言葉に戸惑う。

確かに桜は言っていた。



「明日の夜、聖杯が開きます。遠坂先輩と先輩もいらしゃってください。」



しかし、未だ英雄王とは会っていない。 …そして、彼女にも。 罠か?

しばしの間考え込む。 だが、答えはたった一つしかない。

それを告げようとした時だった。



「行ってください、マスター、シロウ。」



そう言ってセイバーが飛び出した。



「はぁ!!」



風王結界で彼女が切りかかる。

その不可視の剣をライダーはダガーで受け止めた。

しばし、二人の刃のせめぎあいが続く。



「今のうちだ、行くぞ。」

「……ええ。」



俺と凛は、再び同時に駆け出した。














シロウと凛が通り抜ける事を確認すると、私は再度距離をとった。

彼らの足音が、薄暗い洞穴の中で反響していく。

それが聞こえなくなるまで待ってから、私はゆっくりと口を開いた。



「このように戦うのは二度目だな、ライダー。」



しかしながら、彼女は何も答えない。

戦いに言葉は不要、とでも言いたげな態度だ。

そして、彼女はダガーを右手に持ち、飛び込んできた。

ランサー程ではないが、その攻撃は素早い。

それを私は両の手で握った風王結界で弾く。

おそらく技量はアサシン、ランサーより下。 戦えない相手ではない。

彼女の最大の武器である魔眼さえ発動させなければ。

だが……



「ライダー、剣を退け。 お前も今回の聖杯戦争に異常を感じているはずだ。」



ここで争うのは愚策、そう私は判断した。

今回の聖杯戦争は、明らかに異常だ。



二人目のアサシン、黒い影、…そしてサクラの存在。



だから私は彼女に呼びかけた。

ここで、彼女が反応を示さなかったらそれまでの事だ。

だが、彼女の手が一瞬ピクリと動いたことを私は見逃さなかった。

彼女もこの聖杯戦争に疑問を抱いている。

そして、ふと思いおこす。

彼女のマスターはあのサクラという少女。

私の出会いの中では、狂気に取り付かれた少女。



だが―――



彼女は最初から狂気に酔っていたのだろうか?



「!!」



ライダーは再度、飛び込んでくる。

感情的になったのか先ほどより剣の軌道が荒い。

そのダガーの動きを読み、風王結界で受け止めた。

目の前で刃と刃がぶつかり合い、金属のきしむ音が聞こえる。

お互いの顔が目の前にある。

ここがチャンスと判断した私は――



「サクラといったか……貴女は彼女のために戦っているのではないのか?」



眼帯があるとはいえ、一瞬、表情が歪んだのがありありと見えた。

ライダーの、ダガーに込めていた力が増していく。



「そして、ライダー。今、貴女がここで戦う事は彼女のためなのか?」



同時に彼女が力任せに攻撃してきた。

それを私は剣でいなす。

一瞬、バランスを崩すライダー。

それは絶好の隙だった。


体勢を立て直そうとしても、もう遅い。


私はライダーの首に風王結界を突きつけた。

一瞬、ライダーは呆然とする。が、この状態を悟った彼女は、少し顔を伏せた。



「殺すなら、殺せ。」



さらりと髪がすべり、彼女の表情を覆い隠していく。

ライダーはそう、吐き捨てるように告げた。

だが、私は剣を少し退く。

彼女の瞬発力であれば、やすやすと逃げられる距離を置いて。



「っ、情けのつもりか!!」



怒りに顔を歪めながら叫ぶライダー。

しかし私は、そんな彼女に静かな視線を向けながら言い放った。



「貴女のマスターが最初からあのように狂気に囚われた存在なら、私のマスターやシロウはこんなにも必死になって助けには行かない。」

「なっ!!」

「そして、本来、貴女が忠誠を誓うマスターは…狂気に囚われる前のサクラだった。 …そうではないか?」

「……。」

「ならば、私たちの争う理由が何処にある。」



そう言って私はライダーの眼帯に視線を向けた。



「従者は主の命令に従う事だけが忠誠の証ではない。 時に主を諫めるのも、その役割の一つのはずだ。」



しばし、お互いの間に沈黙が流れる。

その時だった。 奥のほうから轟音が響いたのは。

それに反応したのはライダーだった。



「音が近い…まさか、英雄王が?」



その呟きで理解した。


彼女…ライダーを第一関門とするならば、もちろんこの先には第二関門、第三関門もあるのだろう。

そして、それが前回のアーチャー、ギルガメッシュ。

もし彼がライダーと同じような命令を受けていたとなると…

サクラの意に反して、戦端を開いたという事だ。


かの英雄王相手に、サーヴァントが消えて強化される術を失ったシロウと、一般的なマスターであるリンが太刀打ちできるとは思えない。

自分が救援に向かうべきだ。

説得に応じようとしない彼女を、倒してまでも。 ……そう結論付けた時だった。



「行きなさい、セイバー。」



意外にも、ライダーはダガーを納めた。

虚をつかれて、一瞬、彼女の顔をマジマジと見つめる。



「勘違いしないで下さい。先ほどの借りを返させてもらうだけです。」



敵意のないことを示すかのごとく、彼女は後ろを向き距離をとる。

私は一瞬考えたが彼女に一礼をし、先を急ぐ事にした。
















セイバーと別れて、俺たちはさらに進む。

奥に進めば進むほど魔力の濃度は濃くなっていく。

本当に噎せ返るような邪悪な魔力。

あるいはこのような魔力を浴び続けていたらサクラのようになってしまうのか。

そのような事を不覚にも思ってしまっていた時だった。



「そこで止まれ、雑種。」



聞き覚えのある声が響いた。

そして目の前に一人の男が現れる。

そう、金のフルプレートを身に付けたあの男。


無駄に豪華な英雄王の登場だった。


当然、俺たちは臨戦態勢をとる。

だが、サーヴァントを持たない俺と凛では、コイツに敵うはずもない。

嫌な汗が、背筋を流れた。



                                                              フェイカー
「あの小娘の命令で、貴様らは通すようにと言われていたのだが…。だが、受けた屈辱は返さねばな、贋作者。」



そういって、英雄王は俺を見据える。

どうやら、本当にサクラは俺と凛を招待したかったようだが……



「思わぬところでのご指名、感謝の極みとでも言っておこうか?」



そう言って俺は癖のようにシニカルな笑みを浮かべる。

そして、凛の前に立った。



「ちょ……士郎?」

「先を急げ、凛。ここは引き受けた。」

「でも……。」

「いいから。 時間はない。」

「……わかった。」

「さあ、行け。 後から必ず追いつく。」

「……絶対だからね!!」



同時に、凛は英雄王の横を駆け抜ける。

ギルガメッシュは俺を見据えたまま、微動だしなかった。

やはり、コイツは俺のみに興味の対象を当てているようだ。



「待たせたな、英雄王。」

「ふ、かまわんさ。どうせ、貴様の残された最後の時間なんだからな。」



そういって指を鳴らす英雄王。

                         ゲート オブ バビロン
同時に背後に開かれたのは、王の証たる“ 王の財宝 ”。




普通に考えれば、コイツに単独で勝てる確率など、万に一つもない。

だが、彼女と約束したのだ。


一緒に桜を助ける、と。

決して…死なない、と。


気分は不思議なほどに高揚している。

恐怖の震えでなく、武者震いが止まらない。


目の前には、仁王立つ英雄王。

その背後には、無数の武器たちが今にも襲い掛かりそうに漂っている。


だが、





負ける気は、ない。






「さて、英雄王、宝具の貯蔵は十分か?」


          無限   の   剣製
一息で“unlimited blade works”を展開する。



そして、二度目となる宝具と、その贋作の打ち合いが始まるのだった。














「はっはっはっ!!! どうした、雁作者!! 勢いが衰えてきたぞ!!」



ギルガメッシュの猛攻。

かつてはアーチャーの補助があったがため何とかなった。

だが、今の自分ではかなりきつい。

それに自分の魔力は――かなり消費している。

先ほどから打ちもらした宝具が体をかすっていているおかげで、体力すら削られていくのだ。


何か手はないか…そう、頭を働かせ始めた時だった。





不意に感じたのは、後ろからの気配。

そして―――



  エ ク ス カ リ バ ー
“約束された勝利の剣!!”



放たれた一撃。



「――セイバー!!」



それはライダーと戦っていたはずのセイバーだった。

奇襲とも言えるそれに、さしもの英雄王でさえ直撃……そう考えた、が。



しかし、英雄王はそんな攻撃で倒れるほど甘くはなかった。

彼は前面に展開した宝具で防ぎきったのだ。



「騎士王…今度こそ我が物となりに来たか?」



あくまでも不敵に、英雄王は告げる。

口元には、女性を蕩かせる笑みを浮かべている。



しかし、セイバーも流石は騎士王。



「戯言を、英雄王。 私は貴様のものになる気などこれっぽっちもない。」



笑みに何の感情も浮かべなかったし、数多の宝具に恐れる様子もなかった。



「ならば……力ずくでも!!」



セイバーは俺の前に立つ。

そして、再び剣を構えた。 目の前の英雄王と睨みあいながら。

彼女は告げる。

後ろにいる俺に、俺が一番嬉しく感じる言葉を。



「シロウ、援護をお願いできますか?」



かつて、その横に並びたくて―――そして、彼女以外には何もいらないと思うまでに愛した女性。

今ではもう、その気持ちは磨耗しつくされ、再び彼女を想うことはない。

それに心のどこかで解ってしまっている。 あの『セイバー』とここにいるセイバーは違うと。

だが……



「任された。後ろを気にせず存分に戦ってこい。」



俺はその信頼に応えてみせる。

セイバーは頷く、そして一気に飛び掛った。



「甘い!!」



      ゲート オブ バビロン
英雄王の“ 王の財宝 ”が再び開く。

そして、彼の合図と共に一斉にセイバーへと宝具が殺到し始めた。



「それの相手は俺だ!!」



        無限   の   剣製
再び、“unlimited blade works”を展開させる。

ぶつかり合う宝具。

その隙にセイバーを……



「甘い!!」



だが、英雄王はさらに宝具を出す。



「くっ!!」



その速度に現在の俺では追いつけない。

流石に英雄王の宝具。

俺の…しかも英霊の一端にいた『俺』ではない固有結界如きで追いつけるものではない。

それでもセイバーそれらの一撃を紙一重でかわしていく。

その身のこなしは騎士王と呼ばれるセイバーだからであろう。

だが、その彼女をもってしてもこの宝具の雨のために、前に進めない。



「つっ!!」



このままではジリ貧。

せめて、ここで一人の援護を。

そう思った時だった。



「どきなさい!!エミヤシロウ!!」



後ろから叫び声。

俺はそれに反応し、横へと飛び去った。

その避けるかどうかの刹那。



 ベ ル レ フ ォ ー ン 
“騎英の手綱!!”




白い光が、俺の隣をすり抜けていく。



「ライダー!?」



思わず、俺は叫んでしまう。


何故、敵のはずの彼女が…など考えた事は山ほどある。


だが、ライダーから強力な一撃が放たれるのを見て、一度その疑問を飲み込んだ。

薄暗い闇を切り裂いて、光は迫る。

それは、ライダー渾身の一撃だろう。



それでも…



「雑種どもが!!」



ギルガメッシュは更なる武器…



    エ ヌ マ ・ エ リ シ ュ
“天地乖離す開闢の星!!”



かの英雄王最高の武器が迎撃する。

光は相殺し合い、その眩しさに俺は思わず目をつむってしまった。


その間に――



「英雄王っ!!」



セイバーは一気に接近し、切りかかろうとした。

だが――



「甘いぞ、セイバー!!」



その一撃でもひるまぬ英雄王ギルガメッシュ。

                     エ ク ス カ リ バ ー
強力なエアの一撃はセイバーの“約束された勝利の剣”を弾き飛ばす。



「とどめ!!」



さらに次の一撃を英雄王は加えんとしている。

















「お呼びですか、シロウ。」



それは、昼間のこと。

セイバーを呼び出した俺は、彼女が来たことを確認するとある箱を手に取り、それを渡した。



「これは?」

「君が本来持っていたものだ。」



そう言って、訝しげなセイバーに中を開けるよう促す。

言葉に従いその箱を開けるセイバー。

そしてその中身に驚きの声をあげた。



「親父が君を呼び出す媒体したものだ。…君にとって大切なものだろう?」



そう、これが今回の戦いにおける秘密兵器の一つ目――














      ア ヴ ァ ロ ン
「――“全て遠き理想郷”



セイバーが翳すは、遠い昔に彼女自身が失った剣の鞘。



「何っ!?」



そしてそれは英雄王のエアの一撃を完全に受け流した。

            エ ク ス カ リ バ ー
だが、セイバーの“約束された勝利の剣”は今手元から飛ばされている。

このままでは……



そう思った時だった。

ふと頭をよぎるものがある。

剣が頭の中をよぎるのだ。

そう、この身は無限の剣。

そして、剣を投影するのなら、いかなるものでも成し遂げる。



       トレース  オン
――――投影、開始



ならば、今彼女に相応しきものは……


          体は     剣で     出来ている
「――――I am the bone of my sword




           血潮は鉄で              心は硝子
 「―――Steel is my body , and  fire is my blood




             幾たびの戦場を越えて不敗
 「―――I have created over athousand blades .

                         ただ一度の敗走もなく、
             Unaware of loss.

                ただ一度の勝利もなし
             Nor aware of gain



               担い手はここに独り
 「―――With stood pain to create weapons.

               剣の丘で鉄を鍛つ 
          waiting for one's arrival



            ならば、               我が生涯に意味は不要ず
 「――I have no regrets. This is the only path


          この体は、              無限の剣で出来ていた 
 「―――My whole life was “unlimited blade works”








唯一つだ。








「受け取れ、セイバー!!」



俺は詠唱から、生み出した剣をセイバーへと投げる。

そして、彼女はそれを落とすことなく受け止った。



「終わりです、英雄王!!」



そして彼女は開放する。

 カ リ バ ー ン 
“勝利すべき黄金の剣!!”



彼女が持ちし、常勝の剣を。

その一撃は、英雄王のエアを上回り、そして、彼を完全に切り裂いた。



「バ…カ…な…?」



そして英雄王はまるで信じられないものを見る瞳のまま崩れ落ちた。



「我が……敗れる……か。」



英雄王は呟き、そしてそのまま息をすることをやめた。



「流石に…英雄王。手強い男だった。」



俺は一言つげると手を合わせた。

セイバーも横で黙祷を捧げる。

ここにメソポタミアの英雄にして最大の敵は倒れたのだ。


















「助かったよ、ライダー。」



俺は、距離をとって立っていたライダーに声をかける。

ライダーは相変わらずの無表情で立っていた。



「……いえ。貴方が死ぬとサクラが悲しみますから。」



その一言で察する。このサーヴァントも桜の事を思っていることを。



「借りができました、ライダー。」



そう言いながらも、セイバーは臨戦態勢をとろうとする。

ここまでどういう経緯があってセイバーがライダーと戦わずにここまで来たかは知らない。

だが、彼女たちは本格的に和解したのではなさそうだ。

ライダーも臨戦態勢に入ろうとしている点でわかる。



「ここで争ってる場合じゃはないだろ、セイバー、ライダー。 一緒に行こう、桜の元に。」



「は?」

「え?」



今にも激突しそうな雰囲気だった彼女たちだが、俺の一言で気が抜けたようで。



「何を言ってるのです、シロウ。彼女は敵……。」

「そうとも言えないはずだ、セイバー。俺たち3人の目的は共通している。ライダーも元の桜が返ってきて欲しいのだから。それに――」



そして俺はライダーを見る。

彼女は一瞬たじろいだ。



「ライダーも、悪いヤツじゃないみたいだしな。」



そういった瞬間にセイバーとライダーが共に脱力した。

案外、この二人相性がいいのではないか。そう思えた瞬間だ。



「無駄よ、セイバー。言い出したらシロウは聞かないみたいだから。」



不意に入り口方面の方から、声がした。



3人ともそちらを向く。

すると、イリヤとアサシンの二人がいた。

そしてその顔はすでに諦めきった顔だ。



「こんな所で、不毛な言い争いしてる暇があったらさっさと奥に進みましょ。」



そういってスタスタと歩いていくイリヤとアサシン。



「まあ、確かに。ではライダー、ここは休戦としましょう。」



すでに呆れた顔でセイバーはライダーに告げるとイリヤの後を追った。

一人残されたライダーは呆然としていた。



「まあ、ということでよろしくだ、ライダー。」



そういって俺はライダーに笑顔を向けた。

ライダーもやはり呆れた顔をした。

そして―



「エミヤシロウ、貴方には敵わない。」



そう告げると、3人の後を追った。

俺は少しため息をつく。

そして髪を少しかきあげた。



「ふう――なるほど、昔の自分も演じてみるものか。」



苦笑を浮かべて、俺は皆を追いかけはじめた。


あとがき

というわけで14話をお送りしました。


えー、非常に間が開いてしまいまして申し訳ありませんでした。


とりあえず迷い続けてた所があってそこを解決するのに時間がかかった次第です。


まあ、この辺りで英雄王は退場願いました。

ライダーさんはどうするか迷いましたが健在にしておくことにしました。

まあそんな感じの14話です。


物語りも本当に終盤です。

もうすぐ終わりですのでここまでお付き合いくださった皆さまはもう少しお付き合い願えると幸いです。


次へ

戻る

inserted by FC2 system