『冬木の地においての聖杯戦争が起こる。』




私の元にそれが届けられた時、特に感慨は無かった。

またか、そう思っただけ。

それは自分が今回、マスターではなかった事。

私の気にするあの男もマスターではなかった事。

色々な要因が重なっていた事が原因で。

だから興味を失ってしまっていた。

念のため、監視者として代理人を派遣することはしていたけれど。



そして、私は後悔する事になる。





その浅はかな決断を。





数日後、代理人からの連絡が途絶えた。

不測の事態、そのとき私は改めて、マスターと思われる人物の詳細報告を見た。




目を疑った。

背筋に冷や汗がつたう。

目の前が、真っ暗になった。





だって、そこにはあったのだ。








ありえないはずの少女の名が。









冬木の地に立ったのは久方ぶりだった。

ロンドンに行ってから、帰ってなかったから…随分になる。

だが、そんな感傷に浸っている暇なんて無かった。





濃密な魔術の残照がしたから。




目的地も決めず、思わず私は駆け出した。

遠坂家の家訓、『どんな時でも余裕をもって優雅たれ』。

そんなこと守っていられなかった。


胸騒ぎが、止まらなかった。










さんざん走り回ってようやく辿りついたのは、かつても聖杯が現れたという寺だった。

そこからにじみ出る魔力、そして瘴気はあまりにも禍々しく、自分も溺れそうになる。

だが、すでにピークを脱したようで徐々に収まってはきている。

安心できる事態のはず。

はず、なのだ。

でもその様子とは逆に、私の胸騒ぎはどんどん高まっていった。

脳内では、引き返せ、進むなという声が響いている。



だが、進まなければならない。



私が、最初からここに来ていたらこんな事態にはならなかったかもしれないのだから。








そして、私を迎えたのは







切り裂かれたであろう聖杯。







かつて騎士王が使っていた聖剣







それに貫かれた満足げな笑顔を浮かべた少女。









最愛の妹は、おそらく、あの男に斃された。







そして、私は悟ってしまった。







妹は幸せの中で死んだこと。



あの男はもう帰ってこないこと。



こうして、彼が、アイツになってしまったこと。





私は意味も無く拳を壁に打ち付ける。





血が流れ、骨に痛みが響いても止めない。





そう、こうなってしまったのは私の所為。





それを忘れないために



赤き弓の戦


第12話 脱落




「……」



俺は目を覚ます。

この夢はなんなのか?

少なくとも、俺の記憶ではない気がする。

そう、ぼんやり考えていた時だった。





昨日の事を不意に思い出した。

それで全てが繋がる。

自分の封じていた罪の記憶と共に。




「ははは……正義の味方を目指して、桜を殺したか。」



なんという皮肉。



乾いた笑いだけが浮かぶ。



「気がついた?」



不意に声がする。

俺は顔をあげる。そこに座っていたのはアーチャーだった。



「ああ、いい当身だったよ。」



皮肉を返してみたがイマイチの切れだったのか、アーチャーはピクリとも反応しなかった。

俺の目を睨むように見据える。

そして……



「……シロウ、貴方は何者なの?」



俺に尋ねた。

その瞳は偽りを許さない雰囲気を漂わせてた。



「わかった。簡単に話す。」





そして、俺はため息をついた。



「俺は…衛宮士郎。ただし、現在の人生は二度目だがな。」

「え?」



一瞬、戸惑いの声を上げるアーチャー。

言葉遣いにも、違和感を感じているらしい。

それもそうだ。

俺は、多少意図的に『衛宮士郎』を演じてきたのだから。



「俺は死んだ後、君と同じように守護者となった。そして、冬木の第5回聖杯戦争を終えた後、10歳の自分へと逆行した。」



何とも皮肉な事だったがな、と苦笑を浮かべる。



「そんな……ことが?」



アーチャーは戸惑いも声を上げる。



「理由はわからない。聖杯の力だったのかそれ以外の力だったのかそれすら不明だ。」

「なんて、出鱈目なこと……」



そのとき、ふと気がついたように、アーチャーは俺を見る。



「もしかして、私の正体を知っている?」



焦ったように、そして、迫力を込めて聞くアーチャー。



「い、いや、すまない。おそらくかつての俺とあったのかもしれないが……記憶が安定しないんだ。」



そういった瞬間、アーチャーは物凄い表情で俺を睨んだ。

なんでさという言葉を必死で飲み込む。


理不尽だ……だが、それをもらした途端に俺は口撃に晒されるだろうから。(誤字ではない)


だが、彼女は不意に真顔に戻った。



「それで……桜の姿を見て、かつて彼女を殺した事を思い出して、錯乱したって所かしら?」



確信をつく彼女。

鋭い洞察力にショックを受ける暇もない。



「相変わらず後ろ向きね、エミヤシロウ。」

「え?」

「やり直しの機会を得て、それでも過去に囚われているなんて心の贅肉もいいところっていいたいのっ!!」



そういって、ビシッと指をさすアーチャー。



「せっかく、戻ってきたんだから、桜を助ける努力をしなさいよ。」

「だけど……」

「正義の味方って何なのよ?」



アーチャーが俺の言おうとした事をさえぎった。

黙り込む俺。

それが解っていれば、俺は、あの英霊エミヤはあそこまで磨耗しなかっただろう。



「ハッキリ言うわ。正義の味方なんて欺瞞以外の何者でもない。」

「……。」

「特に、アンタのはね」


それも解っている。ずっと言われていた事。



「それでもそれをアンタは貫こうとしたんでしょ。だったら、桜を助ける努力をしなさいよ。」



そういってアーチャーは俺の目をじっと見据えた。



「出来るでしょ。今、貴方は桜の正義の味方なんだから。」



俺は考え込む。



「前と一緒の道を進むなんて単なる逃げ以外の何物でもないわ、前を進みなさい衛宮士郎。」



アーチャーの顔を見る。

彼女に覚えは無い筈だ。

…だが、その励ましが不思議と懐かしい。



「それが……『衛宮士郎』、なんでしょう?」



そういうと、アーチャーは立ち上がった。



「あと1時間後、冬木教会に行くわ。それまでに決意しておいてね。」



タン、と小さな音と共に、襖が閉まる。



「俺は……」



苦悩する、俺をひとり残して。





















一方、外に出たアーチャー。

ため息をつきながら何気なく辺りを見回して、ある一点に視線を集中させた。



「いるんでしょ、遠坂凛。」



言い放った瞬間、ガサっと物音が立つ。

隠れていればやり過ごせる、と思ったのだろうか。

しかし、アーチャーの視線が動かないのを知り、観念したように凛が現れた。



「デバガメなんてらしくないんじゃない?」

「なっ!!」



ニヤリという笑みを浮かべるアーチャー。

彼女は、『デバガメ』という言葉に反応して真っ赤になった凛を、もっとからかうかと思われた。



だが、アーチャーはふと優しい笑顔に戻る。



「ちょうど、良かったわ。貴女に話があるの。」



そうして、それぞれの転機が訪れる。



















夜中に歩く集団。

高校生くらいの男女、コートにコサック帽の少女、鎧姿の少女。赤い服にコートを羽織った女性。陣羽織のサムライ姿の男性。

普段なら職務質問を真っ先にされそうな一団。

だが、折りしも、人々が夜に不意に倒れる事件、夜中に外出していた男性の失踪事件。

それらが頻発し、夜中の人通りは皆無である。

真っ直ぐに教会へと向かっていく一団の中、まだ俺はその中でどうするべきかを考えていた。










「シロウ、ついたわよ。」



答えはまだ、出る事はない。

俺は、静かに聳え立つ不気味な教会を見上げた。

ここに来て、参加を表明してから5日がたつ。


たった5日。


しかし、されど5日、だ。


そして事態は、思わぬ方向へ大きく変化していた。



「どうする、セイバー?お前はここに良い思い出がないようだが?」



俺はセイバーに尋ねる。



「愚問です、シロウ。相手にはアサシン、いえ真アサシンがいます。どこでも油断は出来ません。ついていきます。」



セイバーはそう答えた。

いつもと変わらぬ凛々しい答え。

それはいつだって、俺を安心させてくれる。



「解った。……行こう。」



そう言うと、俺たちは教会の中へと歩き出した。








教会は相変わらず気味の悪いオーラを漂わせている。



「全く、相変わらず辛気臭い場所だわ。管理人と一緒で。」

「――ほお……褒め言葉と受け取っておこうか。」



そういって現れたのはあの神父だった。

陰気な笑みを湛えたヤツは、この教会の雰囲気を、いっそう不気味にしているように思える。

……子どもは、泣き出すんじゃないのか?



「お前は!!」



瞬間、セイバーが構える。

だが、それに怯む様子もない。



「セイバー、彼は敵じゃないわ。」



意外にも止めたのはアーチャーだった。



「しかしっ!!」

「あの英雄王はすでに、彼の元を離れているわ。」

「なっ!!」

「…素晴らしい。そちらのアーチャーはそんなところまで知っているのか。案外いいカードを引いていたのだな衛宮士郎。」

「ああ、おかげさまでな。」

「それで、アインツベルンのお嬢さんも含めてリタイヤかね、凛。」



そういってニヤリという笑みを浮かべる神父。



「冗談っ!! あんたもわかっているんでしょ、現状を。」



噛み付く凛。

先ほどまで、多少考え込んでいたようすだったのだが、今では復活しているらしい。



「ふむ。確かに想定外の事態ではあるな。コチラの手札も取られてしまうのは予想外だったが。」

「だから、相談にきてやったのよ。」

「ふむ……それは人に物を頼む態度ではない。だが、ご期待には添えそうもないな。」



そう言って、言峰は少し考える仕草をする。



「ある程度は話したのか、アインツベルンの娘。」

「ええ、器の所まではね。」

「そうか、凛には気の毒だが…間桐桜もまた器である事は事実だ。」

「っ!!」



凛は手を握りしめた。

必死に感情を押し殺そうとしているのが、背中からでもわかった。



「前回の聖杯戦争の最後、そこのセイバーが聖杯を破壊した折にどうやら間桐の爺が聖杯の欠片をを回収したようでな。そしてそれをあの少女に埋め込んだらしい。」



言峰はそういいながら、不意に天井を見上げる。



「どうやらそれが発動したようだ。今回の聖杯戦争に不測の事態が起こったのはそのあたりが原因だろう。」



かつて、前回、そして今回の聖杯戦争を経験して、やっとピースが埋まりつつある気がした。



「さて、そろそろ出てきてもらおうか、間桐の翁。」



ゆっくりと、言峰が告げる。



「ほほほっ、やはり貴様の聖域(テリトリー)。すぐにばれたわい。」



同時に、現れたのは間桐臓硯、そして真アサシン。

俺たちは臨戦態勢をとろうとした。



だが、それを阻んだのは、意外な事に言峰だった。



「凛、裏口の墓場から脱出しろ。」

「はぁ!? …どういう風の吹き回し?」

「ふむ、たまには兄弟子らしい事でもしてみようと思ってな。」

「……どうだか。まあ、アンタの事だからただでは死なないと思うし、任せるわ。」



そういうと俺とイリヤを次々と見る凛。

俺とイリヤは頷いた。

そして凛、セイバー、イリヤ、アサシン、アーチャーの順で離脱する。



「衛宮士郎。」



俺に背を向けて、敵と対峙する言峰が、不意に問いかけてくる。



「なんだ、言峰。」

「貴様のいう正義は見つかったか?」



痛いところを突かれた。



「……。」

「まあ、いい。その答え、次に会った時に聞かせてもらおう。」



俺は無言のまま離脱していくしかなかった。



「さて、待たせたな、ご老体。」



そして、言峰は剣――代行者が好んで使うという黒鍵を取り出した。













裏口から出て、即座に離脱。

それがシロウやリン、私が考えていた事。

だが、そんなに甘くはないというのも事実だった。

何となく、懐かしい気配を感じた。

だけど、それを認めたくなかった。

もしそれが本当なら、私は彼と対峙しなければならないのだから。



でも。



「つっ! 流石に長生きしているだけあるわね、あのジジイ…!!」



私の予感は当たってしまった。



「バーサーカー……。」



思わず呟く。

それは変わり果ててしまった、狂戦士。

すでに彼に全く意思なんてものはないに違いない。



「■■■■■―――――!!!!」



そして周りの墓石を蹴散らしながら黒い暴風がせまって来た。



「セイバー!!」

「アーチャー!!」



凛と士郎は同時に英霊に指示をだす。

だけど――



「イリヤ!!」

「いや、凛、俺たちだけで迎撃するぞ!」



私には……出来ない。

…ううん、したくなかった。



眼前ではまずセイバーが切りかかる。

次々と繰り出される高速の斬撃を、バーサーカーはいとも容易く受け止めていく。

そして、反撃にはたった一撃だった。



「ぐぅっ!!!」



セイバーはそれを剣で受けるものの、弾き飛ばされる。



「このぉ!!」



その隙にアーチャーが例の銃を打ち込むが、バーサーカーに全く効き目がない。



「つっ!!この前より強くなってるわね…」



アーチャーがぼやく。



「士郎!!」

「ああ!!」



援護と言わんばかりに凛がガンドの嵐を、士郎が弓と矢を投影して打ち込む。

だが、それにも効果があるはずはない。



「■■■■――!!!」



逆にバーサーカーはさらにその斧剣を振るう。

周りの墓石を蹴散らしながら。

その時だった。



バーサーカーの蹴散らした墓石が私の方に飛んできたのは。



「イリヤ!!」



士郎が叫ぶ。

だけど……もう回避すらできない。

スローモーションで飛んでくるそれを、ただ阿呆のように突っ立って見ているだけ。





――その時だった。





墓石がキレイに一刀両断された。



「無事か、マスター。」



目の前に立ったのは時代遅れの武士。

優雅なその姿は、まるで一陣の清浄な風のよう。



「アサシン……なんで?」

「何故とは滑稽な。拙者にとってマスターは主だ。主を守らぬ英霊はいないだろう。」



さも当然のように告げるアサシン。

彼にとって現在のマスターは私。



「ははは……そうよね。貴方は私の英霊か…。」



そして、私にとってサーヴァントは――



「いいわ、アサシン。貴方の力でバーサーカー――いえ、敵を撃破して。」

「御意。」



彼は優雅に跪くと、すっと立ち上がった。

そして、己の刀――長大な物干し竿を抜く。

相変わらずの猛威を振るうバーサーカー。その前にアサシンは立った。



一瞬の沈黙。

そして、二人は同時に己の獲物を振るい始めた。

力任せのバーサーカーと洗練された技を振るうアサシン。

正反対の二人が織り成す斬撃の応酬は優雅な演舞を思い出させるものだった。



「凛、今よ!!」



だが、自分はあえてそれに幕を引く。

だって……

その演舞は自分には残酷なモノだから。



「……セイバー!!」

「はい。いきます。」



同時にセイバーが構える。

風王結界が解かれ―――



「アサシン離脱!!」



同時にアサシンを離脱させる。

――そして…



    エ ク ス カ リ バ ー 
“約束された勝利の剣!!”」



放たれる光の一撃。

それに飲み込まれるバーサーカー。



「アーチャー!!」

「解ってるわ!!」



だが、それでも足りない。



     接続
Zweihaunder…………!」



未だに彼は



  接続、        解放、          大斬撃
 「Eine, Zwei, Rand Verschwinden ――――!」



倒れていない。



   チェインズ サーベル・ゼルレッチ
「“平行なる世界を結ぶ軍刀 ”」



続けて放たれた一撃、そして…



             体は     剣で     出来ている
 「――――I am the bone of my sword.



士郎が構える。


        そは  一矢にして  九を  射抜く
 「――――One arrow hit nine tagets



形状が剣から弓へ―――


   ナイン・ライブズ
「“射殺す百頭!!”」



そして、撃ちだされる九の光。

それは確実に急所をとらえた。

それでも――



彼はまだたっていた。



当然だ。自分にとって自慢の存在だった。

負けるはずのない存在。

だけど……



煙が消え、姿を現す。

右手は消し飛び、ところどころからどす黒い血が流れ出す。

それでも彼は立っている。

不意に目が合う。

二ヶ月の間だった、共にいたのは。

短いかもしれない。でも、それでも唯一の存在だったのだ。

だから、彼の目から彼の意思を受け取るのは、簡単だった。



「…アサシン、お願い。」

「任された、マスター。」



そいて、アサシンは歩み寄り、剣を構える。


    もののふ
「真の武士よ、出来れば違った形で見えたかったものだ。」



アサシンの手向けの言葉。それを聞いて、バーサーカーは笑った気がした。



「――秘剣“ツバメ返し”」



同時に、バーサーカーの首が飛んだ。

私はそれをしっかりと見届ける。

それが元マスターとしての義務。

わかっている、これは戦争なんだから。

だから、止めなければならない。この頬から流れ落ちる雫を。



「イリヤ……。」

「分かってる。……でも、止まらないの…」



凛が不意に私を抱く。

ぎゅうぎゅうと力を込めるから、性質が悪い。

胸の辺りに押し付けられるから、呼吸もしにくい。

…でも、今の私にはありがたかった。











バーサーカーが逝った。

彼らしい、最後だった気がする。

俺の経験した聖杯戦争の中でも随一の強さ、そう心の強さを持った英霊だった。

そう、少し感傷的になっていた時だった。



「あら、やっぱり負けてしまいましたか。」



不意に声がした。

振り向けば、当然のように少女は立つ。

顔に笑みを浮かべながら。



「桜……。」



その姿は相変わらずの血のような緋色の目。

そして、頬のタトゥーのような模様も健在だ。



「先輩……私のモノになる気になりましたか?」



その笑顔は未だに狂気じみたもの。



「桜、今からでも遅くない、こんな事やめるんだ。」



俺は無駄だと思いながらも、呼びかける。

だが……



「無理ですよ、先輩。もう、兄さんを殺した私に戻れる訳ないんですから。」



桜がサラッと、すごい事を言った。



「……慎二を?」

「ええ、私を襲おうとしたからサクッと死んでもらいました。」



今、彼女はナンテ言った?

慎二をサクッと?



俺には、……ココまで歪んでしまった彼女を救えるのか?



「苦しそうですね、先輩。私のモノになれば…」



その瞬間だった。

足元に歪みが生じる。



「楽になれますよ。」



そして、展開したコールタールのような黒い泉。



「士郎!!」



やばい、飲み込まれる。そう感じた瞬間だった。

不意に何かに突き飛ばされる感覚。



「っ!!」



そして、自分のいた方を振り向く。

そこに立っていたのは――アーチャーだった。



「全く、肝心な時とろいんだから……」



そういいながらもアーチャーはどんどん飲み込まれていく。

泉からは触手に似た手が伸び次々とアーチャーを包んでいきながら沈んでいく。



「つっ!!アーチャー!?」



凛が声をあげた。



「遠坂凛……後は頼んだわよ。」

「!!」

「士郎!!令呪!!」



イリヤが叫ぶ。それにハッとした俺は令呪を作動させようとする。

だが、気がついてしまった。

令呪がすでに消えかけている事に。

それを気がついていたようにアーチャーが告げる。



「衛宮士郎…時には難しく考えずに突っ走るのも一つの手よ。前向きにね。」



そういって俺の目をみて、笑顔を浮かべ親指をあげた。

同時に次々とアーチャーは飲まれていき、最後に親指を立てた右手が飲まれ――





ボチャンと音がした。






そして、俺の右手から消える礼呪。






「このおおお!!!」



不意にセイバーが桜に切りかかった。

だが、その刃は桜まで届かない。

桜の前には眼帯をしたサーヴァント、ライダーがセイバーの剣を己のダガーで受け止めていた。

セイバーはすぐにライダーから距離をとる。



「ありがとう、ライダー。」

「いえ、桜…少し熱くなりすぎです。」



その時、教会から光が溢れる。

それは浄化の結界が作動したかのように、清清しく荘厳だ。



「ゾウゲンがやられたようです。マスター撤退を。」



ライダーは冷静に告げる。



「わかったわ。」



そして、再び桜は歪んだ笑みを浮かべた。



「明日の夜、聖杯が開きます。遠坂先輩と先輩もいらしゃってください。」



そして、桜は後ろを向く。



「先輩、私はいつまでも待ってますよ、私のモノになるのを。」



クスクス、笑い声を残して、桜は消えていく。

ちらりと眼帯のままコチラを見遣ったライダーも同様に。




数分の静寂。

そして、ため息を俺はついた。



「明日か…。」

「士郎……。」



凛が俺に話しかける。その瞳はやや戸惑いがちながら…。



「今日は、帰って休もう。」



俺はそこであえて提案した。



「でも……。」

「帰るわよ、リン。」



さらに何か言おうとした凛をイリヤは手を引く。

それに従うようにアサシンが付き添った。



「帰ろう、セイバー。」

「……無念です、シロウ。」

「?」

「最強のサーヴァントと言われながら、盟友を助ける事が出来なかった。」



グッと拳を握るセイバー。



「仕方ないさ、セイバー。」

「ですが!!」

「…アーチャーに、悔いは無い筈だ。それよりお腹すいただろう、帰って飯にしよう。」



そう言って彼女の頭に手をおいた。

少し、セイバーは赤くなったあと、コクンと頷き、彼女は3人の後を追う。



「それに――直接の原因は俺だからな。」



聞こえないように零し、俺はグッと唇をかむ。

口の中に鉄の味が広がってもなお、俺はそれをやめなかった。

だが、こうしても仕方がない。

アーチャーのためにも俺は前へと進まなければならないのだから。


あとがき

というわけで12話をお送りしました。



黒バーサーカー、アーチャーが退場なさいました。



そして、言峰VS臓硯・真アサシンは全面カットされました。

まあ、大人の都合です。

しかし、展開は大体本編と同じで、戦う場所が教会に変わったくらいだと思っていただければ幸いです。

機会があれば外伝でも作ってやるかもですがそれはリクエスト次第にしたいかと。

あと、桜黒化の軌跡もその形にしてやるかもしれない程度で。




何となく息切れしてきた感じですが、今後も何とか頑張ります。ご意見お待ちしております。

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