「で、どうするのよ?」



隣に立つ凛が苛立ちながら尋ねる。

目の前に広がるのはだだっ広い森。

来るものを拒むようなオーラを放っている壮大なものだった。



「ここがアインツベルンの森ですか?」



苛立つ凛とは逆に、冷静に尋ねるのはセイバーである。

しかしながら彼女も一応は冷静を装っているようではあるが、普段より苛立っているような気がする。

それもそのはず、この主従は今回の協定を申し出る事に対して、反対であるのだから。





彼女たちは主張する。

あのイリヤがこちらの提案に従う事はない、と。

だが俺は、彼女なら、イリヤなら協力してくれると信じたい。



「…行こう。」



俺はそれだけ告げると、その森へ向けて歩き出した。

それを見て、セイバーも続く。



「もう……。」

「まあ、愚直だけど……好感が持てるでしょ。」

「……あんた、自分のマスターにくらいしっかり首輪つけておきなさいよ。」

「無駄よ。彼は本当に真っすぐだから……だからしっかり捕まえときなさいよ、遠坂凛。」

「なっ!! わ、私は別に…っ!」



後ろではアーチャーが何やら凛に告げて歩いてきた。

その顔に浮かぶのは何やらいやーな笑い。

そして、凛は顔を真っ赤にした後、憮然とした表情でこちらを追いかけてくる。

アーチャーに言い負かされたのだろうか。

しかし、やはり凛は凛だ。

そう思うと笑みが浮かんだ。



赤き弓の戦


第10話 イリヤ




周りは生物の匂いの希薄な空間。

森は生命を生み出すはずの場所だが、この森は相変わらずそんな気がしない。

いや……確かに森の中に生物は溢れている。

つい先ほどから様々な昆虫ばかりを見かけていたのだから。

であるのにそう感じるのは何故か……?

アインツベルンの森、この場所の所為か?

確かに、俺は何度もここに来た。

かつては騎士王、宝石の魔術師と来た。

そして様々な経験をした。

だからなのか……?

…いや、違う。

そう、これは体の五感以外からくる警鐘…



「シロウ……」



不意にセイバーが話しかけてきた。

その声色がやや強張っている。



「悪い予感がします。」



セイバーの長年の経験から来る直感。

それが悪い予感告げるという事は間違いがないかもしれない。

そう考えていた時だった。



「!! 結界……ね」



凛が告げる。

俺は、目の前に広がる何の変哲もない空間を見据えた。

青々と生い茂った木々は、一見して何もないように見える。

だが、五感以外の何かが告げる。

目の前のモノの、他とあまりにも違う雰囲気を。

正面から行くにはあまりにまずいと感じた。

だが……



「…行こう。ここで止まるわけには…いかない。」



そういって俺は結界の中に足を踏み入る。

その瞬間だった。

濃密な殺気と、耳を劈くように響く爆音。

明らかなる戦闘の雰囲気だ。

そしてそれは、城のあるであろう場所から流れてくる。



「これは!?」



そういって目を厳しくする凛。

セイバー、アーチャーもそれぞれ臨戦態勢に入る。



「……っ急ぐぞ!!」



俺たちは駆け出した。

相変わらずの、不気味さをかもしだす森の中を。









「ここが…アインツベルンの城?」



凛が呟く。それに頷く俺。

森の中心、少し開けた場所にある城。

聳え立つ城からは、先ほどから響いていた激音が聞こえなくなっていた。

イリヤが勝利しているならいいのだが……

しかし、先ほどから嫌な予感が一向に消えない。



「突入しよう!」



俺はそう言って前に進もうとする……その時だった。



「待ってください。」



そういうと同時に、セイバーが俺の行く手を遮った。



「全員で突撃するのは得策ではありません。」

「だが、戦力を一気に集中するのが戦の常道だろ。それに……」

「冷静になってください、シロウ。貴方らしくない。」



そういってセイバーは俺を見つめる。

その瞳は、注意深く戦況を見つめる気高き王の瞳。

俺は他の二人を振り返り見る。

口には出さぬものの、同じ事を考えているようだ。



「……ごめん、俺…先走りすぎたな。」



嫌な予感がするからといって、焦りすぎたか。

先走りすぎて全員を道連れに負けてしまったら目にもとめられない。

素直に頭を下げた。



「分かってもらえればいいです。」

「それで、どうするの、セイバー?ここで引き返すわけにはいかないわよ。」



凛が尋ねる。確かにここで引き返すのは得策ではない。

セイバーは余裕を込めた笑みを浮かべた。

それはまさに名案が…との如く。



「策があります。」














やや、いらいらしながらいつもと変わらぬ朝を迎えた私。

理由は分かっている、上手くいっていないからだ。

今回の戦いこそ、一族の悲願をかなえる。

そう、決心して迎えた戦争なのに。

だけど、ペースは狂わされっぱなしだった。

最初にあの男の息子を殺して、あとは傍観している間に英霊を絞る。

そのはずだった。

確かに、英霊は減ったようだ。

少なくとも三人。 彼らの気配は、消えている。

しかし、あの男の息子は予想外の存在だった。

何より、私の存在を知っていたというのが一番の誤算。

どうすれば……



「!!」



思考の海に沈みかけていた時だった。

結界を何者かが越えた。



「敵か…、いいわ少し遊んであげる。」



いらいらとする気分を解消してやろう。

私はそう呟くと、ホールに出迎えに向かった。







数分後ホールに現れたのは意外な存在であった。



「まだ生きておったか、アインツベルンの娘よ。」

「その台詞そっくり返すわ、間桐の翁。貴方が正式なマスターだとは…流石の私も、知らなかったわ。」



そう。 フロアにいたのは間桐臓硯。

永遠の命にしがみ付こうとする老いた醜い蟲。



「まあ成り行きでな。しかし……お主も存外甘いの。」



その瞬間だった。

どこからともなく数本のナイフが私めがけて飛んでくる。

しかし、私も焦りはしなかった。

ナイフは全て私には届かない。

だって……ナイフはバーサーカーの剣撃にすべて弾かれるから。



「あら、これでもかしら。」

「ふむ、まあこんなもんじゃろう。出てきていいぞ、アサシン。」



すると、ぬるっという表現が似合うように現れる黒き影。

その黒の中に一色ある白の仮面が不気味さを際立たせていた。



「へー。それが貴方のサーヴァント。…クスっ、お似合いね。」

「ほっほっほっ。まあわしも気に入っておるでの。」

「でも、そのサーヴァントで私のバーサーカーに勝てるのかしら?」

「さあどうじゃろうな。」



再び臨戦態勢に入るアサシン。



「いいわ。…バーサーカー、遊んであげなさい!」



その一言と同時にバーサーカーは飛び出した。

アサシンはすっと空中に浮き上がり、ナイフを次々と投げつける。



「■■■――――――!!」



だが、バーサーカーは雄たけびと共にそれを弾いていく。

そしてアサシンに向けて突進する。

その突進をヒラリとかわすアサシン。



「■■■■■!!!」



尚も斬撃を続けるバーサーカー。

回避するアサシン。

でもその実力差は一目瞭然だ。

だって、バーサーカーのマスターは私。

アインツベルンの娘であり、今回の聖杯の器なのだから。



「ふむ。やはりアサシン一人では荷が重いかの…。」

「あら、今更泣き言?別にいいけど…ここで死んでもらうわよ。」

「ほっほっほっ。焦っておるのアインツベルンの器。」

「!!」

「まぁ、焦るのも仕方なかろう。何せ、脱落したはずのサーヴァントが自分の器にはいってこなんだからのー。」

「貴方!?」

「まあよいわ…。お主を捕らえるためには…そこの狂戦士を倒させてもらおうかの。」



その言葉と同時だった。

バーサーカーの心臓に突き刺さる真紅の槍。

彼の、英霊の命が一つ消える。



「なっ!?」



同時に現れるのは……黒い鎧の戦士。

突き刺した槍は因果律を逆転させるもの。



「全く、俺はこんな不意打ちばっかりかよ。」



そう悪態をつく姿は正にあの英霊…ランサーだった。



「なっ…ランサーって脱落したはず…。」

「ほっほっほっ。」



「■■■――――――!!」


だが、バーサーカーは槍を引き抜く。

そして次はランサーに向かい突進しようとする。



「ふっ……うるさいぞ、神族の誇りを忘れし雑種。」



それと同時に、鎖が現れバーサーカーを縛り付けた。

現れたのは金のフルプレートを身に付けし男。

だが、肌の色がやや白味が増し、その金髪もどこかくすんで見える。



「バーサーカー!?」

「哀れなヤツだ。狂わなければ我と対等に戦えたものを。」

「■■■■――――――!!」



もがくバーサーカー。

しかし、もがけばもがくほどその鎖はバーサーカーを締め付ける。



「バーサーカー!! 狂いなさい!!」

「■■■■―――――!!!!」



圧倒的な力が、バーサーカーを包み込む。

その力は他のどんな英霊でも叶わないはず。

………だったのに。



「無駄だ、雑種。その鎖は天の鎖(エルギトゥ) 。堕ちたとはいえ、神であるお前には一生解くことができん。」



そういって黒き英雄王は指を鳴らす。
          ゲートオブバビロン
同時に展開する“ 王の財宝 ”



「さて、幕引きだ、雑種。」



そして……多くの宝具がバーサーカーに向かい突き刺さった。



「■■■■■―――!!!」



バーサーカーはその過剰なまでの攻撃を耐える。

だが徐々に回復が間に合わなくなる。

いや、間に合わないのではない。

許されないのだ(・・・・・・・)

回復するそばから、宝具は傷をえぐるように刺さっていく。



「うそ……バーサーカー?」



私の前で何かが崩れ落ちていきそうな感じがする…その時だった。



ホールの扉が大きな音を上げて開いた。

一堂の注目がそこに集まる。

そして、その場所には、あの男の息子……衛宮士郎と彼の英霊アーチャーが立っていた。












部屋の中は異様な光景だった。

間桐臓硯、中央に鎖につながれたバーサーカー、ホールの階段の上にはイリヤ。

そして、黒いローブに白い髑髏の仮面を被った男…これがおそらく間桐のアサシン。

で、何故か黒化したランサーと英雄王。

ただ、イリヤの状況だけは分かった。



「やはり、お主かの衛宮の子倅。」

「ああ、久しぶりだな、間桐のジジイ。しかし、アサシンだけでなく、ランサーと英霊王をサーヴァントにするとは…流石だな。」

「厳密に言うと違うのじゃがの…。まあ、良い。手間が省けた。」



今まで好々爺然とした顔を崩さなかったヤツが、初めてその表情を崩す。

薄目を開いて、唇を軽く歪める。

それだけで、顔の印象が一変してしまうのが不思議でならない。

だが、それを合図とでもするように、ほぼ同時に他のサーヴァントがこちらに向いて、戦闘態勢をとった。



「……ジジイと戦うのは気が引けるのだがな。」



アーチャーに聞こえないように、『アーチャー』の口調でそう呟くと、俺は例の如く干将・莫耶を取り出す。

隣のアーチャーも軍刀を構えた。

一瞬、凍りつく空気。

その中で俺は一呼吸、大きく吸い込んだ。

合図は必要なかった。

ほぼ同時に、俺とアーチャーは飛び出していく。

そして俺は迷いもせずに、アサシンへと突貫した。

予測していたのか、アサシンはナイフを次々と俺に投げつける。

だが、俺はそれらを両の手の干将・莫耶で弾いていった。

もちろん走る速度は落とさない。

逆に一気に接近すると、一息に切りつける。

アサシンはそれを両の手にナイフを持ち受け止めた。



一方で、アーチャーも俺を見向きもせずに、ただひたすらランサーへと切りかかる。

嬉しそうに顔をゆがめて笑うランサーも、ゲイボルグで応戦。

しばし、赤と青の打ち合いが続いた。

すさまじい戦闘。

しかし一人のあまり――



「我の存在を忘れたか!?」



英雄王ギルガメッシュのことだ。

                      ゲートオブバビロン
忘れられていて拗ねたのか、今にも“ 王の財宝 ”を発動させようとしている。



その瞬間だった。



ガラスの割れる音。そして同時に窓から飛び込む影。

その影は一気に英雄王に切りかかった。

          ゲートオブバビロン
不意の一撃で、“ 王の財宝 ”を展開させるに至らなかった英雄王は、右のプレートで一撃を受け止めた。



「なっ!!セイバー!!」

「久しぶりですね、英雄王。」



セイバーは珍しく片手で風王結界を持ち、ギルガメッシュに切りかかっていた。

それがギルガメッシュが右手のプレートだけで受け止められた原因だ。



「我のものにでもなりに来たか、騎士王!!」

「それは…どうですかね!!」



そう言うと同時に、セイバーは空いていた左手を後ろに回し開く。

次の瞬間その左手には長大な刃を持つ槍が握られていた。


     ランサー・ロン
「“長き刃をもちし槍”!!」



その槍はギルガメッシュの右の脇腹をつら抜く。

セイバーのサーヴァントであるが故に威力は大きく落ちる。

しかし、確実に貫いた槍のダメージは少なくない。



「マスターっ!!」



セイバーが叫んだと同時に、同じ窓から突っ込んできた影。

影は一直線にイリヤに向かい、彼女の前に立った。



「な…っ!!」



影の正体に気がつくイリヤ。

自分を庇うように立つ、その姿は。



「っ、リン!!」

「ちょっと失礼するわよっ!!」



そう言うと、凛はイリヤを担ぎ上げる。



「こらっ!! 何をするのよ、リン!!」



凛の背中を叩くイリヤ。

だが凛はそれを意に介せずに、動き始めた。



「させんぞぉ!!」



凛の動きに、いち早く反応したのは以外や以外、間桐臓硯だった。

蟲を媒介とする魔術が容赦なく凛を襲う。

だが、その一撃は凛に届かなかった。



「マスターには触れさせません!!」



セイバーが一撃で、蟲を弾いた。

その隙に凛は一気にホールから一足飛びで、俺とアーチャーが入ってきた入り口へと飛ぶ。





それを確認するのと、俺がした行動は同時だった。

地をけって、後方へと飛ぶ。

そして干将・莫耶をアサシンに投げつけた。



「!!」



アサシンはそれを何とかギリギリで回避するが、少々バランスを崩す。

アーチャーも俺の意図を悟ってか、軍刀でゲイボルグの切っ先を逸らした。



「なっ!!」



ランサーに一瞬の隙が生まれる。

そして、アーチャーが左の手に出現したのは銃だった。



        狙え、   一斉 射撃
Fixierung, Eile Salve――――!!」

「くそっ!!」



ランサーは持ち前の素早さを活かし、回避運動に入る。



  アブソリュート ・  ガンド
「“絶対的な呪術の銃 ”!!」



放たれる強大な閃光。

それを当然のことながら回避するランサー。

だが、大きく体勢を崩していた。



「逃がさん!!」



先ほどまで倒れていたはずのギルガメッシュが動く。

だが、まだ腹の傷は癒えていないため動きは鈍い。

それで十分だった。

投影を行うには。



            トレース オ ン
「――――投影、開始



右手に込める魔力。



我が体、其は雷也。



そして、剣を右手に投影する。

それは日本刀に似て、日本刀ではない。

真っすぐな、少しの歪みもない古代刀だ。



「“布都御魂”!!」



同時に剣から流れ出すのは雷。

それを俺は一気に解き放った。

ほどばしる閃光。

それでも……

ここまでしても嫌な予感がやまない。

そう、知っている。

もはや疑いない悪寒。

ドロッとした独特の殺気。

間違いない。  






あ の 影 が こ こ に い る 。






「放してっ!! バーサーカーが……!!」



イリヤの心からの叫び。

それと同時だった。



「■■■■■■■■!!!!!!!」



彼の狂戦士は、鎖を引きちぎる。

ギルガメッシュが弱っていたからなのか、イリヤの叫びが届いたのかは分からない。

だが、バーサーカーは今まで以上の強力な力で狂う。

純粋な魔力の衝撃波で、ランサー・アサシンが次々と弾き飛ばされる。

でも……

勝ち目はない。

俺の直感がそう告げる。

ふと狂戦士へと視線を移した時、彼と俺の目が合った。

意外なまでに、穏やかな黒い瞳。

一瞬の邂逅――だがそれで十分だった。



「逃げるぞ!!」



同時に俺は凛から、イリヤを受け取り両腕に抱える。

そして一気に走り出した。

それに続く、凛、アーチャー、セイバー。

背後では未だに轟音が響く。

イリヤが叫ぶ。

我武者羅に暴れ、後ろに手を伸ばす彼女。

だが、それすら構っていられなかった。



そして――糸が切れるように大人しくなったイリヤ。



悟ってしまった。

嗚呼、あの誇り高き戦士は逝ってしまった、と。















「イリヤは?」

「寝てるわ。」



あの後、何とか家まで撤退した俺たち。

今、イリヤは俺の家に留まっている。

そしてすでに、時は夜へと移っていた。



「しかし、どうするのよ、この後…正直分からないことが多すぎるわ。」



そう言ってため息をつく、凛。

アーチャーも同意する。



「……今回の戦争は本当におかしい…。かつてシロウが言っていた破壊活動によって願いをかなえるという点を差し引いても何かが違う気がします。」



そうハッキリと告げるのはセイバー。

その違和感は俺も感じていた。

だが…同時に俺は、こうなる事を知っていたのかもしれない。

かつての歴史の中で経験した可能性もあるのだろう。

だが、それすらもあやふやな記憶で。



「……貴方達の予想通り、今回の聖杯戦争はイレギュラーが多いわ。」



思考に没頭していた俺は、不意に聞こえた声に驚いた。

そちらを向く。

すると、そこに立っていたのはイリヤだった。

もとからの赤い瞳が、いっそう赤みを増した気がするのは、気のせいか。

彼女は部屋に入ると、俺の横に座りこむ。

少し、セイバー、凛、アーチャーの目が厳しくなった事はここでは些細な事だろう。



「だって、脱落したはずのランサーが生き返ったんだから。」



その言葉に一気に目線が鋭くなる俺。

消滅したはずの英霊が生き返るなんてことがあるのか…。



「属性が正反対になっていたから…そうね、黒化とでも呼びましょうか。」



俺のその疑念に答えるようにイリヤは話を続ける。



「なんで…あんたはそんなこと知っているの?」



イリヤの真正面に座った凛は、彼女を鋭く睨む。



「う〜ん、シロウは知ってるでしょ?」



そう言って俺を見るイリヤ。

その視線は全てを見透かすように思える。



「参ったな。降参だ。」



そう言って手をあげた。

そして、俺は磨耗した記憶のイリヤの頁から記憶を搾り出した。



「イリヤは厳密に言うと人間ではない…ホムンクルスだ。」

「えっ!?」



その言葉と同時にイリヤを見るセイバーと凛。

流石に驚きは隠せない様子だ。



「なるほどね……。出現した聖杯の寄り代となる器…ってところ?」

「ご名答。アーチャーの割には魔術に詳しいのね。」



的確に答えを出すアーチャー。

そしてそれに興味を示すイリヤ。



「まあ、ホムンクルスだろうが、イリヤはイリヤだ。」



そういって俺はイリヤの頭を撫でる。

その行動に、イリヤの顔が不思議に赤くなった。

……はて?

同時に他の女性陣に物凄い顔で睨まれた。

……なんでさ。



「ともかく、とりあえず今日は休みましょう。正直私も疲れたわ。」



イリヤが咳払いをしながら、告げる。

ふと、さっきまで寝ていたんじゃないかという疑問が浮かんだが、それはそれ、置いておこう。



「そう、ね。じゃあ、私たちも帰る、セイバー?」



だが、セイバーは首を縦に振らなかった。



「いえ、このような事態が続く今、戦力を分散させるのは得策ではありません。シロウの家に留まるべきです。」



いきなりの一言。

凛の顔が一気に赤くなる。



「まあ、確かにそうね。その方が問題ないわね。」



そういってアーチャーがセイバーの案に賛成する。

ちなみにその笑顔は悪魔だ。



「ななっ!! で、でも、服とか…。」

「そのあたりは、アーチャーと私で運ぶとします。」

「でも、家の結界とか……」

「あの程度の結界なら、私でも解けるわよ。」

「うううううっ!!」



どんどん、言いくるめられていく凛。

これはこれで一興だ。

普段は逆だからな〜。



「決まりですね。」

「ふっ、ふん! わかったわよ!! 士郎!! 部屋を選ばせてもらうわよ!!」



そう言うと、ドスドスという音を立てて凛は離れへ向かっていく。



「では、私はマスターの荷物をとってきます。アーチャー、すまないが…」

「オッケー。私も行くわ。」



同時に、アーチャーとセイバーは縁側から飛び出していった。

しばし、呆然とする、俺。



「………俺の意思は?」

「ないんじゃない?」



呟いた言葉に帰ってきたのは、イリヤのきぱっとした答え。

ばっさりと切られた感、満載。俺って一体…

しかし、今の会話に違和感を感じる。

不意に…気がついた。



「シロウ、どうしたの。うれしそうな顔をして?」

「いや、なんでもない。それより、イリヤ。少し小腹がすいただろう。何か作ろう。」



そういって俺は台所へと向う。



「なんか食いたいか?」

「…ブリンチキ ス スィルナイ ナチーンカイ」

「…おいおい。」





凛に久しぶりに、“士郎”と呼んでもらえた嬉しさを噛み締めながら。









あとがき

というわけで10話をお送りしました。

黒い軍団登場です。



あと、セイバーさんに武器追加です。

名槍ロンですがロンゴミアントともいいます。

元々、ロンゴミアントで使う気だったんですが、koujiさんの『その身は、剣で出来た聖剣の鞘』で使用されていましたのであえて変更しました。

まあ、何故使えるのかということは今回は正式な魔術師と契約してるからという設定です。



あと『ブリンチキ ス スィルナイ ナチーンカイ』はよく分からないですがロシアンのお料理だそうです。まあろんも食した事はございません。




何となく文章型式をばっさり変えてみました。

どうでしょうか?

読みにくくなったかもしれなくてドキドキです。


あとクリックが無駄に多くなったかも…


今後もこの形で行くかは不明です。できれば皆様の意見を参考にしたいと思う次第です。

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