夜の公園。待ち人は二人。

男性が一人と背の高い風変わりな目隠しをした女性。

少しほっとする。

彼が彼女を連れて来なかったという事は今すぐ彼女を如何こうする気が無いと言う事だろう。



「遅いぞ、衛宮!!今度は一人だろうな!?」



そう叫ぶは間桐慎二。



「そう思うなら確認するがいい。」



俺は勤めて冷静に答える。



「ライダー。」

「はい、この周囲1`にサーヴァントの気配はありません。」

「それより、―無事なんだろうな。」

「安心しろ。――手にかけるほど悪者でもない。」



どうだか、と俺は心の中で呟く。



「さて、衛宮。もう一度だけ言う。僕と手を組め。」

「断ったら?」

「ライダーが相手になるさ。」

「どうせなら、――を人質にとればよかったんじゃないか?」

「はっ!そこまで僕は悪党じゃない。」



今でも十分悪党だよ。俺は心の中でそう呟いた。

だが、これで勝機が生まれた。



「では、心置きなく戦うとしよう。」



そういって俺は干将・莫耶を両の手に握った。




赤き弓の戦


第7話 騎手





夜の電話の相手は慎二だった。

半ば予測していた事ではあったのだが、内容が少し驚かせた。



「桜を!?」



一人で海浜公園に来る事、さもなくば桜は無事でないと思えと言う内容だった。

自分の迂闊さに舌を打ちながら、俺は一人で公園に向かった。

慎二について…自分なり考えた。

偽臣の書を持っている限り正式なマスターでは無い事は明白。

おそらく慎二はライダーを手放さない限り、この戦争から手を引かない。

そして、ライダーの本来のマスターは誰なのか?

これは不明。いや…



「…いくの?」



少し考え込んでいた所にアーチャーがたずねてきた。



「ああ。」

「止めても…無駄でしょうね。」

「すまない。俺は桜のために行かなければならない。」

「はあ…。わかったわ。」





そして、今に至る。目の前にはライダー。

前回のアーチャーの時はライダーは即座に退場していた。

そして、前の“衛宮士郎”で会った時はセイバーと打ち合っていた記憶しかない。

という事は…宝具を打たせるわけにはいかない。

だから…先手必勝といわんばかりに俺は仕掛ける事にした。

まず干将で切りつける。

それをライダーはダガーの刃ではじく。

予測済みの行動。同時に左の莫耶をで切りつける。

それをライダーは後ろに飛び去り回避した。

前に出ようとする俺。しかしそこにライダーのダガーが飛び込んできた。



「ぐぅ!!」



とっさに干将と莫耶をクロスして受け止めるがあまりの威力に二つの短刀は消滅する。



「つっ!!」



俺はすぐに干将と莫耶を投影する。



「はははっ!!どこまで持つかな!!」



慎二の声が響く。

だがそれにかまっている余裕は…ない。

俺はひるまずに飛び込む。

そして次々と両手の短刀を振り下ろしていく。

だが、ライダーはダガーだけで全てはじいていく。

偽臣の書で力がおちているとはいえ、さすがに英霊。

正攻法では勝ち目は無いだろう。

俺はひとまず間を取る。

そして、新たな投影を開始する。



             体は     剣で     出来ている
「――――I am the bone of my sword.」

     そは     雷        の  化身    なり
「――the incarnation of thunder god.」

       ミョッルニル
「“怒れる雷神の槌”」



同時に右手に投影された槌を投げる。

ライダーはそれを簡単に回避するが



「!!」



その槌はライダーを逃がさない。

即座にライダーの方に反応し、動く。

が、しかしそれまで冷静そのものだったライダーに少し焦りが見えた。

速度が一気に上がり、ライダーはその辺りの木や街灯を利用して不規則な動きを繰り返す。

だが、槌はそれを逃がさない。



「何やってるんだ、ライダー!!それを壊せ!!」



慎二が苛立つように叫ぶ。

ライダーはそれを聞いて破壊せざるをえなくなった。

ダガーを投げつける。

それが命中するかしないかの瞬間



ブロークン・ファンタズム
「“壊れた幻想”」



俺はミョッルニルを爆発させた。





奇襲作戦。それしかない。





そう思って再び干将・莫耶を構え飛び込もうとした。

……その時だった

ライダーの目隠しがはずされる。

その瞳はまるで綺麗で…

吸い込まれるような感覚を覚えて…



「つっ!!」



その瞬間、俺は目を逸らそうとする。

だが、



   ブレーカー ・  ゴルゴーン
「“自己封印・暗黒神殿”」



動けなかった。



「しま…魔眼…。」



それと同時に思い出す。

かつて、衛宮士郎であった頃、ライダーはペガサスに乗っていた。

そして石化の魔眼。

……!! 魔眼キュベレイか…!!!

ライダーの正体がやっと、掴めた。



「ふはははははっ!!無様だな衛宮!」



ライダーの横で笑う慎二。

もはや勝利を確信したらしい。



「さて、もう一度聞く。僕と同盟を組まないか?」



再度そう尋ねる。それに対し、



「……断る。」

俺はそう答えた。

途端に慎二の笑顔が引きつった。



「なら…ここで死ぬんだな!」



そういって偽臣の書を掲げた。

その時だった。





響く銃声



「うわっ!!」



同時に慎二の持つ偽臣の書が弾き飛ばされる。



「なっ!!」



驚く慎二。さらに無口なライダーにも驚愕の表情がはしる。

それと同時にだった。

ライダーが反応した。そして臨戦態勢をとる。

さらに追いうちをかけるように放たれた一撃が偽臣の書に直撃した。

それと同時に偽臣の書は燃えはじめる。



「しまったっ!!」



同時にライダーは自由を取り戻したのか、いきなり撤退する。



「まてっ!!ライダー!!」



しかし、ライダーは見向きもしない。

取り残されたのは、哀れな男ただ一人。



「…これで形勢逆転かしら。」



そこに現れたのはアーチャーだった。



「く…なんで…。ライダーめ、僕を騙したのか!!」

「あら、私はアーチャー。当然、千里眼のスキルを持ってるわ。それに魔術で視力なんてどうとでも出来る。」



そういって彼女の宝具“アブソリュート・ガンド”を手でもてあそぶ。

そう。

彼女には1`以上はなれたビルの屋上で待機してもらっていた。

そして、もしもの時のためには出てきてもらうために。



「さて、どうする、慎二。」



ライダーが撤退した事で魔眼の効力が切れた俺は、慎二の前に立った。



「そんな…」



明らかに動揺する慎二。目は空ろに、声は落ち着きをなくしていく。



「ははは…僕は魔術師だぞ…。ははははははは、衛宮なんかに負けない…負けないんだっ!!」



そう言って、慎二は逃げ出した。



「つっ!! 待て!!」



追いかけようとした時だった。



「そこまでにしてくれんかの。」



不意に声が響く。

それは、ねっとりとした粘着質で…だが乾いたような矛盾を秘めた声。

そして、闇夜から一人の老人が現れた。



「……誰だ。」

「ほっほっほっ。あやつの爺じゃよ。間桐臓硯。よろしくの。」



そういいながらも油断ならない。一見はそうはわからない。

これが老獪な魔術師というものだろうか。



「……お前がライダーのマスターか?」



そう尋ねる。

だが…



「残念ながら違うの。その証拠にわしの体に令呪はない。確かめるかの?」



確かにマスターの隣にサーヴァントがいないはずがない。

まして目の前に敵のサーヴァントがいるとあっては。

では…誰がマスターなのか。

慎二に近い人物。

まさか…




オモイダスナ




頭が…




オモイダスナ




痛い…





オモイダスナ





「…ロウ」






オモイダスナ






「シロウ!!」



その声に俺は正気に返る。



「あ…アーチャーか…。」

「どうしたの?顔が真っ青よ。」

「…ああ、大丈夫だ。」



そういって俺は間桐臓硯に向き直った。



「解った。慎二に手は出さない。  …その代り、慎二を聖杯戦争に近づけさせない事を約束してくれ。」



俺は臓硯にそう告げる。



「それくらいたやすい事じゃ。まあ愚かな孫ではあるが、わしのかわいい孫じゃからの。」



そういって臓硯は、再度ほっほっほっと笑う。

再度、念を押すと、俺は目の前の得体の知れない爺から離れた。





「馬鹿じゃない。」

「シロウは甘いですね。」



ばっさりと切り捨てられる俺。

やはり、赤い悪魔と白き王は容赦ない。

あの後、何とか帰宅した俺たちは、例のごとく作戦会議を開いていた。

当然柳洞寺から帰還した、凛とセイバーも含めて、だ。



「そんなの嘘に決まってるじゃない。」

「信用なりませんね。」



なおもそう畳み掛ける二人。

腕組みをする彼女たち。  …何だこのぷれっしゃーは。

ぷれっしゃー再び。

だが、俺はそれを苦笑いして流した。



「そうでしょう、貴方からも言ってあげてアーチャー。」

「え…?ええ、そうね。」



だがアーチャーはやや歯切れが悪い。調子を崩したのだろうか。



「まあ、良いわ。それでライダーの正体はわかったのでしょうね。」

「ああ。石化の魔眼。しかも高位の。これでおのずと絞れるだろう。」

「……メドゥーサね。」

「おそらくな。おそらくペガサスのライダーといった所だろう。」

「なるほどね。厄介な奴ね。」

「そっちはどうなんだ、柳洞寺については?」

「間違いなく、キャスターの根城ね。しかもイレギュラーのアサシンのおまけ付き。」



ここも前回と変わっていない。



「アサシン、彼は真名を佐々木小次郎と名乗りました。」



凛に変わり、セイバーが話す。



「かなりの使い手です。」



セイバーはぐっとコブシを握る。

どうやらすでに打ち合ったらしい。



「これで、全てのサーヴァントの情報が出揃ったか。」

「ええ。で、どうする?」

「…柳洞寺が先だな。キャスターの所為だろうが、魔力が失われる事件が頻発している。それを止めなければ。」



そう、正義の味方を目指す衛宮士郎にとって、やらなければならない事。



「まあ、確かに結界の発動まではまだ時間がある。明日の夜、柳洞寺に攻め入りましょう。」



凛が同意する。二人のサーヴァントも頷いた。

相手もサーヴァントが二人ならばこちらも二人でかかる。コレで決まりのようだ。



「じゃあ、私は帰るわ。」

「ああ。送ろうか?」

「昨日と同じやり取りをする気は無いわよ。」



そう言って、凛は立ち上がった。セイバーもそれに従う。



「じゃあ、また明日。」

「ああ、遠坂もセイバーも明日学校で会おう。」



それを聞いて凛は嫌な事を思い出したと言わんばかりの顔をする。



「じゃあね、セイバーさん。明日会いましょう。」

隣のアーチャーが小悪魔的な笑いを浮かべた。



「ええ、明日よろしくお願いします。衛宮先生。」




セイバーも負けじと返す。どうやら仲良く学校生活を送っているようだ。

凛は…疲れきった表情で部屋を出ていく。

セイバーもそれに従っていった。


あとがき

追記というか、武器解説です。

   ミョッルニル
“怒れる雷神の槌”



北欧神話においてトールが持つ槌。

放つと絶対にあたるといわれる武器である。

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