「僕は正義の味方になりたかったんだ。」



その呟きは誰のものだったのか。

いや、その言葉を発したのは目の前にいる人。

そう、いろいろ手を尽くして助けられず、その命が今尽きようとしている人。

だが、それは自分自身にも当てはまる気がする。

俺は正義の味方になりたかった。それが、どこからか磨耗していった。

他人のために戦い続け、そして、疲れ果てた。

それがエミヤの末路。

次はそうならない保障は無い。

だが……



「安心してくれ、親父。俺が正義の味方になる。」



そう、言い切った。

それを聞いて親父は微笑みとも哀れみともいえない顔を浮かべた。

そう、親父にはわかっているのだろう。

正義の味方を目指すことがどういうことか。

そして、俺も知っているはずだ。それがどういうことか。

だけど、俺は目指す。

正義の味方を。





赤き弓の戦

第5話 同盟





覚醒する意識。どうやら今までの光景は夢だったようだ。



「……体が痛いな。」



体中に疲労という文字がにじみ出ているのでだろうか、体が重い。

周りを見回す。

どうやら俺の家のようだ。

まだ、空は暗い。夜中のようだ。

とりあえず、体のあちこちが痛いのではあるが動くのに支障はない。

体のあちこちが痛い?



「そうか、聖杯戦争が始まったのだったな。」



一人納得する。そう聖杯戦争が始まった。



「あら、気がついたかしら。」



そして声をかけてきたのが…



「マスター?」



俺のサーヴァントの筈の赤い魔王。



「さて、マスター。考えはまとめた?自分に対する後悔はした?部屋のすみで土下座をして言い訳をする心の準備はオーケー?」



その瞬間、俺の顔が引きつる。

ああ、久しぶりに背中を流れるこの冷たい感触はなんだろう?





一時間ほど小言のガンドを浴びて居間に戻る。



「やっと、終わった?」



そこではさも当然という形でお茶を飲む、敵マスターとサーヴァントが一人。

すでにアーチャーからこれでもかという口頭攻撃を食らっていた俺には皮肉をかける気力すらなかった。



「さて……話してもらおうかしら、あなたの知っている聖杯戦争を。」



凛は単刀直入に切り込んでくる。



「いいだろう。先ほど、セイバーにも言ったが俺の親父は衛宮切嗣。先の聖杯戦争のセイバーのマスターだ。」



凛は念のためといった様子でセイバーを見る。それに対し



「事実です。私は前回の聖杯戦争においてもセイバーとして衛宮切嗣の下で戦いました。」



セイバーは答える。



「それで、親父は最後まで生き残った。しかし、土壇場で親父は聖杯をセイバーに破壊するように命じた。」



それを聞いて唇をかむセイバー。

よほど悔しいのだろう。



「だが、あれはそれでよかった。」

「何故ですか!?」



セイバーが我慢ならないというような雰囲気で問う。



「あれはすでに願望をかなえる器として適切でなくなった。」

「!!」



驚くセイバーと凛。



「あれにはどうやら破壊活動という形で願いをかなえるものらしい。」

「な!!」

「そんな馬鹿な事が…」



納得いかない顔をする二人。



「それは俺が身をもって体験した。聖杯戦争直後の新都の中央部の大火事。あれは前回の聖杯から湧き出た呪いだ。」



それを聞いて何かに思い当たったのか考え込む凛。

少し考えこんで俺の方を向いた。



「それで、私に聖杯を壊すために同盟を結べと。」



それを聞いて俺は頷いた。



「……そうね。確かにあのバーサーカーは反則的な強さだった。さらに貴方はセイバーの真名を知っているのね。」

「ああ。円卓の騎士の王。女性だったと親父から聞いてはいたが……。」



そういってセイバーを見る。

その立ち姿はかつてと変わらない。



「……ちなみにイリヤスフィールの件はどうするの?貴方の家族なんでしょ。」



さすがに痛い所をついてきた。



「……そうだな。できれば戦いたくない。だが無理な話だろう。それでもイリヤだけは助けたい。」

「は〜。そんな事簡単にできないわよ。第一聖杯戦争はマスター狙ってなんぼの世界でしょ。」

「そうか。俺と遠坂なら簡単だろう。」



当然だろうと言い放った。

凛は少し驚いた顔、そしてあきれた顔。



「なんで、そんなに自信を持って言い切れるのかしら……。」



そう言って少し思考の海に潜る凛。



「……分かったわ。同盟を結びましょう。」

「そうか。助かる。」

「ただし、条件があるわ。」

「む……。なんだ?」

「一つ、必要なとき以外共闘はしない。一つ、主に協力することは情報の交換。」



そう言って凛は俺に鋭い目線を向ける。



「私は馴れ合うつもりはないわ。それに貴方の事を完全に信用したわけじゃない。ただし、貴方の言う事が本当だったら許せる事じゃない。だから手を組むの。」



これこそ魔術師としての遠坂凛。

当初の目的は一応達成したと見るべきだろう。



「問題ない。情報の交換はどこで?」

「普段は学園に行くでしょ。昼休みの学園の屋上。それと夜はここでいいんじゃない。」



妥当な条件だろう。



「分かった。では…よろしくな。遠坂、セイバー。」



そう言って二人に笑顔を向けた。

一瞬、二人の顔が赤くなった気がしたが気のせいだろう。



「じゃあ、私は帰るわ。」



そう言って凛が立つ。



「あ、送って行こう。」



そう言って俺が立とうとすると



「馴れ合う気は無いって言ったでしょ。別にいいわ。」



凛は拒否の意を示した。



「む…。だがこんな時間に女性一人で出歩くのは…。」

「隣に騎士王がいるのに?」

「セイバーも女性だぞ。」



それを聞いてあきれた顔をする凛。

逆にセイバーはあっけに取られている。



「貴方、本当にかわった人だわ。大丈夫よ。」



そう俺に言って



「セイバー、行くわよ。」

玄関に歩き出した。



「それでは私も失礼します。えっと…」

「士郎で、構わないよ、セイバー。」

「……では、シロウ。」



そう言ってセイバーも玄関に向かう。その時…



「今度は本気で戦ってね、セイバー。」



それまでずっと黙っていたアーチャーがしゃべった。

「!! 気がついていましたか。」

「当然。私は貴方が騎士王って知らなかったけど。サーヴァントのランクぐらい見分けがつく。セイバーのランクでそれほどの能力を有する貴方がいくらヘラクレスとはいえ、バーサーカー相手にあそこまで一方的に苦戦するわけが無いからね。」

「……流石にアーチャーのサーヴァント。いい判断力です。」

「騎士王に評価されるなんてね。私も捨てたもんじゃないかしら。」

「セイバー!!」

「あら、お姫様がご立腹だわ。」

「はい、行きます。それでは、シロウ、アーチャー。」



そう言ってセイバーは一礼し、歩いていった。

そして、凛とセイバーが家の結界から抜けた。





「さて、そろそろ寝る?」

「……そうだな。」

「じゃ、私も適当な部屋、一つ借りるわね。」



そう言って歩き出すアーチャー。



「そう言えば、アーチャー。」



俺の問いにこちらを向くアーチャー。



「君には何も話していなかったが、良かったのか?」

「何が?」

「聖杯戦争の件だ。君もサーヴァントになったんなら願いがあったのだろう?それなのに勝手に壊す方向に話を進めていて悪いとは思う。」

「ああ〜。私は別にいいわよ。第一、私もそんな聖杯を受け入れるほど悪人じゃないわ。それに……私の願いは叶ったから

「え?」

「とにかく、誓ったでしょ。私は貴方の矢となる。だからシロウ…」

「ああ。よろしく頼む。」



それでよかった。



「ところで、シロウ。貴方は父親からその魔術をならったの?」

「いや、独学だ。親父は俺が魔術の道に入るのにはあまり好まなかった。」

「その割には聖杯戦争について色々教えてくれたみたいだけど。」



少し探るような言い方。

「矛盾しているか?」

「そうね。ま、些細な事だから良いわ。じゃあね、シロウ。」



そう言って彼女――アーチャーは居間を出た。



「さて、明日からが本番だ。」



俺は言い聞かせるように呟いた。


あとがき

久しぶりにあとがきでございます。

まず、このようなお話を読んでいただきありがとうございます。

そして、いつも感想、指摘、意見等をいただける皆様、ありがとうございます。

特にメールで感想を下さる皆さん、ありがとうございます。この場を借りてお礼を。

時間が無くて返信する暇が無いのが、心苦しい所ですが……

こんな駄作ですが、今後もよろしくお願いします。

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