教会を出る。

そこはやけにつきが綺麗な丘だった。



「登録、終わったの?」



そう遠慮なく聞いてきたのはアーチャー。



「ああ。儀礼的なものだしな。」



そう言って俺は凛を見た。



「遠坂も悪かったな。」



そう言って一応は礼を言う。



「べ…別に構わないわよ。」



そう言ってそっぽを向く凛。このあたりの意地を張るところはマスターの時と変わらない。

そしてその前もそうだったのだろう。

この磨耗した記憶の中から引きずり出す事は難しいが…。



「で、マスター。どうしますか?」



セイバーが凛に尋ねる。

おそらく同盟の件だろう。



「……解らないわ。少なくともこの男、衛宮士郎が知っている事を教わるまでは。」



そう言って再び敵意を込めた視線を向ける。



「少なくとも現状では貴方と同盟を結ぶ可能性は低いわ。」



それを見ておやおやと思う一方でこれこそ遠坂凛の姿であると納得する。



「どうするの、シロウ?相手はそう言ってるけど。」



そう言って不敵な笑みを浮かべてるアーチャー。



「まあ、良いだろう。とりあえず今日一杯ぐらいは襲ってはこないだろ、遠坂?」

「当たり前でしょ。貴方には借りがあるんだから。少しは遠慮しないとバランスが悪いわ。」



命を助けられたから遠慮すると言う。受け取り用によっては傍若無人な言葉。

だが、俺はそれを聞いて思わず笑いを堪えた。



「ええ、判ってるわ。こんなの私の心の贅肉だって理解してるわよ。けどしょうがないじゃない、私借りを作りっぱなしって嫌いだから。」



そう行って少し怒り気味に遠坂は歩き出した。

それに従うようにセイバーも歩き出す。



「は〜。まったく我侭な姫様ね。」



そう言ってアーチャーは少しため息をつくと霊体化する。



「全くだな。」



そう言いながら、俺はずんずんと歩いていく遠坂を追いかけた。





赤き弓の戦

第4話 狂戦士





俺と遠坂は坂を下る。

そして坂を下るとそこに見えるのは分岐点。

そこで、遠坂は立ち止まった。



「……悪いけど、ここからは一人で帰って。折角、新都にいるんだし、探し物でもして帰るわ。」

「…他のマスターを倒しに行くのか?」

「ええ。貴方は私と同盟を結ぶなんてふざけた事を言ってたけど。私はこの戦争を待っていた。」

「なるほど。」

「貴方が知っている聖杯戦争の事実がどうか知らないけど。私はこの戦いに勝ち残る事が最重要課題。たとえ貴方が敵になろうとなるまいと先に他のマスターを倒す。セイバーと共に。」



やはり凛の目に迷いはない。そしてセイバーもそれに頷いた。

そう彼女は一流の魔術師。自分の信じる道を突き進む。

だが…



「貴方と同盟すると決めてない以上敵に回ることもある。だから貴方と馴れ合いで一緒に帰るなんてしたくないわ。だから、ここで一度別れましょ。敵同士にすぐなれるように。」



やはり魔術師と正反対の性分を持つ少女。だから俺のマスターとして相応しかった。



「遠坂、やっぱりお前はいいヤツだよ。」

「は?おだててるつもり?そんなこと言われても同盟は結ばないわよ。」

「知ってるさ。だが、やはり俺はお前と敵対したくはない。俺はお前みたいなヤツが好きだからな。」

「な―――。」



そこで顔が赤くなりショートする凛。

だが、何とか再起動する。



「とにかく、まだ同盟すると決めたわけじゃないからね。」

「ああ、判ってる。だが、とりあえずこの聖杯戦争の真相は聞いて欲しい。」



そう言って俺は不意に凛から視線を外し新都のほうを見る。



「―――生き残れたらな。」

「―――ねえ、お話は終わり?」



幼い声が俺の視線の先、つまり坂の上から響く。

それを聞いて即座に振り返る凛。

そして動きを止めた。

そこには異形の怪物が立ちそびえている。

それはひどく異質な存在だった。



「バーサーカー…。」



凛は思わず呟く。

そう、そこには異質な巨人。

人ではあらざる存在。そう、それはサーバント。

「初めまして、お兄ちゃん。昨日は会えなかったね。」

そこにいるのは別の意味で異質な少女。

その無邪気な笑みは今の俺でも寒気を感じてしまう。

そうあの少女が目の前に従者を連れて立っていた。





「驚いた…能力はセイバー以上じゃない、アレ。」



凛は思わず舌打ちをする。



「セイバー。」

「わかっています。」



同時に俺たちの前に出るセイバー。



「アーチャー。」



するとアーチャーが現れる



「まさか、自分で戦うなんて言わないでしょうね、シロウ。」

「……」

「言っておくけど、あいつは無茶苦茶よ。貴方の技量でも厳しいわ。そもそも貴方は弓、私が矢。だから貴方は後ろから援護よ。」



そうまるで赤い悪魔のように言葉のガンドを発してアーチャーは俺の前に出た。



「始めまして、リン。私はイリヤ。イリヤスフィール=フォン=アインツベルンって言ったら判るわね?」

「アインツベルン―――」



そう言って絶句する凛。そうそれは自分の一族と同じ聖杯を悲願とした一族。

その執念が生み出した怪物、バーサーカー。



「アレは相変わらず規格外ね…。セイバー、手伝ってもらえる?」

「本来なら遠慮したいところですけど、仕方ありませんね。私が行きます。アーチャー、貴方は援護を。」



アーチャーとセイバーが簡単に打ち合わせる。



「じゃあ、バーサーカー…やっちゃえ。」



同時にバーサーカーが飛び出した。



「このぉ!!」



アーチャーが銃を取り出し撃つ。

その一撃は正確無比で眉間を打ち抜く。

だが…



「くっ!!やっぱりこの程度の呪術では無理!?」



アーチャーの銃撃をくらっても引くことなく突進するバーサーカー。

そしてその手に持つまさに無骨な石の剣が暴風のように振り下ろされた。

それを受け止めようと不可視の剣を構えるセイバー。

とてつもなく重い一撃が打ち下ろされた。

それを小さな身長で受け止めるセイバー。

ガキッっという鈍い音が響く。

セイバーは何とか支える。



「化け物が!!」



アーチャーは銃をさらに連射する。

その銃は全て急所であるポイントに命中するが、それでもバーサーカーが止まる気配はない。

バーサーカーはさらに剣を振り上げ次々と斬撃を繰り出す。

その一撃一撃がまるで爆弾のような威力である。

それをセイバーは受け止めずかわす。

だが、それもどこまでもつか…。

やはり状況は不利。



「遠坂。」

「……ええ。」



俺は弓、そして矢を投影する。



「―――Vier Stil Erschiesung……!」



放射される凛の魔力、さらに俺は矢を次々と放つ。

さらにはアーチャーの正確無比の射撃。



「――――!!!」



しかし、バーサーカーはその全てをただ咆哮のみで耐え切る。

そしてセイバーに仮借ない攻撃を加える。

右から左からの斬撃。それは容赦がない。

一方のセイバーも反撃をすべく攻撃をかけようとするが全てその鉄の体に跳ね返される。



「ちっ!!」

「なんて…でたらめ。」



悪態をつく俺と凛。



「貴方たちでかなうかしら?このギリシャの英雄ヘラクレスに。」



そうイリヤが自信満々に言う。



「なんですって!?」



驚きを隠せない凛。

そう、ギリシャの大英雄のヘラクレス。ただでさえ神格の高い彼が狂戦士である時点でたいていの英霊では相手にならないだろう。

それは眼前で戦うセイバーであっても同じ。彼女はかなり有名な英霊である。それでも4人がかりで押される。

なら…彼女たちが出来るだけ有利な形で戦わなければならない。

だから俺は……。



「こんなでたらめな英霊を呼ぶなんて流石だな、イリヤ。いや、我が妹と呼ぶべきなのかな。」



イリヤに話しかけた。



「!!」



遠坂がこちらを信じられないような目で見る。

イリヤも動揺が始まっている。



「……知っていたの?」

「ああ。親父から聞いている。俺には同い年の妹がいる。いや姉かもしれないがね。ともかく俺が自分の生まれた日を知らないからな。そのあたりはわからない。」



これは嘘だ。親父から聞いたのではなく、俺が調べた事。

そう、いくつか残っているイリヤに対する記憶の一つ。

そしておそらくイリヤは知っていたはずだ。



「そう、血はつながっていないが同じ父を持つもの。そういうことだろ?」



俺は少し皮肉な笑みを浮かべた。



「くっ!!バーサーカー!!お兄ちゃんを殺しなさい!!」



同時にセイバーを放置して俺に突進してくるバーサーカー。



「凛!!かわせ!!」



言うと同時に俺は投影する。



   われは         守り手       の     ナイフなり
「I am a guardian angel of the knives.」



右手に投影するそれは一振りのナイフ。



          ジャモジョヨ ・ クリス
「―――“魂の宿りし短剣”」



バーサーカーの強烈な一撃がクリスを襲う。

その一撃はまさに痛恨。

その絶対的な防御力もバーサーカーの一撃に粉砕され俺は宙を舞った。

そして吹き飛ばされる。



「衛宮くん!!」

「今よ、バーサーカー!!」



俺は地面にたたきつけられた。

激しい痛みが体を襲う。

そこに追い打ちをかけるようにバーサーカーが迫る。



「今だ!!二人とも!!」



俺は叫ぶ。

それを聞いてセイバーは切りかかる。

完全にバーサーカーの後ろを衝いている。

だが、バーサーカーはそれを完全に見切っていた。

バーサーカーはセイバーの斬撃を剣で受け止めた。

だが、それは囮。

セイバーは即座にかわす。そして俺も逃げなければならない。

言う事の聞かない両足に力をつぎ込み。

俺は全力で回避する。



「今だ、アーチャー!!」

「任せて!!」



同時にアーチャーは銃を構える。



     狙え、   一斉射撃
「Fixierung,EileSalve――――!」

     アブソリュート ・  ガンド
「“絶対的な呪術の銃”!!」



その口径からは考えられないような光の奔流がほどばしる。

それは確実にバーサーカーを捉える。



「やった!!」



凛が快哉の声をあげる。

だが、俺もアーチャーも臨戦態勢を解かない。

そう……



「驚いた。バーサーカーを一回殺すなんて…。」



あの狂戦士はあいも変わらず立っていた。



「セイバーには興味がないけど…アーチャーと貴方に興味がわいたわ、シロウ。」



先ほどの激昂も収まったのかイリヤの楽しそうな声が響く。



「いいわ、戻りなさいバーサーカー。つまらない事ははじめにすまそうと思ったんだけど気が変わったわ。」



その巨体が揺れる。

バーサーカーはどうやら後退したようだ。



「――何よ、ここまでやって逃げる気?」



あくまでも挑発する凛。だが、イリヤはそんな挑発を流し



「ええ、気が変わったの。貴方とセイバーには興味がないのだけどね。だからもう少し生かしておいてあげる。」



巨人は消えた。そしてイリヤも



「バイバイ、お兄ちゃん。」



そう言い残して消えた。





突然の戦いは終わった。

やはり、バーサーカーは強い。

今の俺たちが全員で戦っても勝てるかどうか。

凛の挑発もおそらくブラフ。

凛自身もこのままでバーサーカーに勝てると考えていないだろう。

そう思いながら立ち尽くす俺。

不意に視界がぼやけた。



「つっ……。」



クリスで防いだとはいえバーサーカーの一撃をくらったのは失敗だったか。

体中が徐々に悲鳴を上げだす。

同時に巻き起こる激しい痛み。

そして足がぐらつき……





倒れなかった。



「全く、なんて無茶をするのよ、あんたは!!」



それを支えていたのはアーチャーだった。



「衛宮くん、無事!?」



凛も駆け寄ってきた。



「ああ。無事だ。遠坂もセイバーも無事っぽいな。」

「ええ。何とかね。」

「はい。私も無事です。」



二人は答える。



「じゃあ、そろそろここを離れよう。少し派手に暴れすぎた。」



そして、横を向いて



「アーチャー、ありがとう。自分でいけるよ。」



そう言って俺は歩き出そうとした時だった。

目の前が唐突に真っ白になる。



「シロウ!!」



その声も届かず、俺の機能は停止する。

こんなに簡単にガタがくるとはという自嘲を感じながら俺は意識を手放した。




あとがき

武器解説です。

少し特殊な武器をだしたのに解説なしでは不親切という意見がありましたので…

ジャモジョヨ ・ クリス
“魂の宿りし短剣


インドネシア民謡の短剣。
ジャモジョヨ王がある修験者から授かったもの。
その魔力により敵の武器は、クリスの持ち主の身体を傷つけることができない。

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