目の前の女性はマジマジと俺の顔を見た。

そしてニヤリと何やら微笑んだ。

その後右手を見る。そこには俺の令呪がある。

それで自覚した。ああ、こいつが今回の聖杯戦争の俺の英霊だろう。

自分の魔術回路からどこかへ魔術が流れ出ているのが確認できる。



「……どうやらそのようだな。どうやらイレギュラーな召喚だったらしくイマイチ自覚がないが。」



だが、その俺の言葉に満足したのか。



「了解したわ。これより私はあなたの英霊。あなたの矢となり戦うことを誓ってあげる。」



その英霊はえらそうにもそう言った。

その間、あの意味ありげな微笑は続いた。そして不意に後ろを向くと外へと出て行った。





赤き弓の戦

第2話 英霊





外には、先の英霊、ランサーが待ち構えていた。



「待った?」



それに対して俺の英霊、…彼女と表現するが、彼女は恐れもせず、まるで待ち合わせの恋人の如くの口調で話しかけた。



「いや、全然。」



それに対して違和感なく答えるランサー。



「美人を待つのは歓迎だぜ。」



そしてお互い笑いあった。

その直後……

ランサーは槍を突き出した。

不意打ちとして申し分ない一撃。

だが、彼女も予測していた。

次の瞬間、彼女の右手には細身のサーベルが握られていたのだ。

それで槍の一撃を軽くなぎ払う。

そして左手には銃…それも銃というには口径のやたら大きな銃が握られていた。

彼女はランサーがバランスを崩すかどうかという一瞬にそれを正確に5連射する。

飛び出したのは弾丸というより巨大な弾の塊。

それらが寸分なく左胸に向う。

だが、ランサーには矢避けの技能がある。

当然、当たらないはずだが……

それのうち一発がランサーの左腕に命中した。

ランサーはやや信じられない顔をした後、彼女を睨んだ。



「あら、避けられなかったかしら?」



そういいながら不敵な笑みを浮かべる彼女。



「……貴様、クラスは何だ?セイバーか、いやそれともキャスターか?」



ランサーは睨みつける。



「今の銃弾、間違いなく魔術…いや呪術が込められていた。しかも強大な物がな。」



それでも大した傷ではないようだ。



「さあ、力づくで聞いたら?それより、私は貴方の真名。解ったわよ。」



そう言いながら、彼女は左の指で銃を回していた。

それを聞いてさらに目つきが鋭くなるランサー。



「ならば受けるか?我が宝具を。」



そう言って例の体制をとるランサー。

その瞬間、俺は自分の中で魔術回路を起こした。

あの宝具は高い幸運を持つか、一度死んでから生き返る宝具でもない限り回避できない。

あとは自分の持つ、あの武装概念。

だが……



「……そうね。それを食らったら一撃でしょうね。でも当たればね。」



彼女はあくまでも余裕だった。

そして……



   ゲイ ・ ボルグ
「刺し穿つ死棘の槍!!」



放たれる必殺の槍。

一瞬彼女の言葉に呆気を取られた俺はロー・アイアスを展開できなかった。

だが彼女はそれを避けもせず。右手のサーベルを横に払った。

その瞬間、サーベルからすさまじい魔力の奔流が飛び出す。

そしてあまりの威力ゆえにゲイボルグを打ち落としてしまったのだ。





「……滅茶苦茶だな。」



思わず言葉に出してしまう。

そう力技で因果律の呪いを弾き飛ばしたのだから本当に出鱈目な話だ。

だが、彼女はそれをやってのけたのだ。

流石のランサーも一瞬呆気に取られたようだ。



「さて、どうするの?このまま実力を出し切らないままリタイヤする?」



その中で余裕な彼女。どうやらランサーが全力を出し切れていない事を見切っているらしい。

その態度はどこまでも不敵。

そのあまりの不敵さに…



「はははっ!!そこまで言われちゃ仕方ないな。」



笑い出すランサー。そして少し皮肉を込めた微笑を浮かべ



「この勝負預けるぜ。」



そう言ってランサーは離脱の体制に入る。



「あら、何時でも受けてたつわよ。」



そう言って見送る彼女。

ちなみに俺の意思確認は無しなのか?



「じゃあな、投影のマスターとその英霊。今度は本気で戦える事を願っているぜ。」



ランサーは飛び去った。





「……行ったみたいね。」

「……逃がしてよかったのか?」

「さあ。いいんじゃない。」



全くマイペースな英霊がいたもんだ。

普通、意地でもサーバントを倒そうとするものだと思っていた自分の常識が一つ覆った。



「で、貴方名前は?」

「は?」

「名前よ。これからともに戦うんでしょ。名前ぐらい聞かないと。」

「……衛宮士郎だ。」

「へ〜。シロウ、ね。うん、いい響きだわ。」



これまたよく似たやり取りをどこかでした気がするが……。

とりあえずは確かめるべき事を確かめなければならない。



「それで君のクラスと真名は?」

「あら、貴方はこの聖杯戦争について知ってるの?」



ややビックリしたような返事をする彼女。



「俺は魔術使いだからな。そこまで無知ではない。」



その台詞を聞いてやや表情が険しくなる彼女。



「それはどこで知ったの?」



何やら腑に落ちない質問だった。しかし、まさか自分が英霊で逆行してきたとは言えないし信じてもらえないだろう。

だから…



「うちの親父が魔術師でな。彼から聞いた。」

そう答えた。



「ふ〜ん。じゃあ、貴方は魔術を使えるわけね。……確かにかなり申し分ないくらいに魔力も流れ込んできているしね。」



何やら訳のわからない台詞を続け、一人呟く英霊。



「で、先の質問の答えは?」



少し皮肉を込めて問う。



「ああ、ごめん。まあ、セイバーかキャスターが適正なんだけど……アーチャーよ。」



その言葉に思わず笑いがこみ上げそうになる。

どうやら自分にはアーチャーによっぽど縁があるようだ。



「……なによ?何か私の顔についてるの?」

「いや、失礼した。それで、真名は?」

「……それは申し訳ないけど言えないわ。」



それを聞いてやや顔を顰めた。



「別に士郎を信頼していないわけではないんだけど……言うと一寸不味いことになるのよ。」

「……未来の英霊か?」

「言えないわ。」



だが、彼女の表情から俺のその推測が外れでないことを悟った。

同時に、この少女…アーチャーは将来自分と関わりを持つ事になるのだろう。

確かにそれなら真名を言うのは不味いと推測するだろう。

確かに下手をすると世界の修正力が働くかもしれないと考えているに違いない。

だから、無理に聞かないことを決める。



「解った。これからよろしく頼む。アーチャー。」



そう言って右手を差し出した。

すると彼女は何故か俺の手を取り…



「ここに契約は成立する。貴方は弓として、私は矢としてこの聖杯戦争を戦うことを誓う。」



そう言って手の甲にキスをした。

そうそれが彼女なりの主従の礼かも知れない。

だが、どうやら照れくさかったらしく顔を上げたアーチャーの顔は赤かった。

一瞬、お互いに照れくさい雰囲気が流れた。

しかし、次の瞬間二人の顔が引き締まった。



「さて、次のお客さんが来たようだな。」



俺は屋敷の外を見る。

アーチャーはどうやら臨戦態勢に入ったようである。

先の銃とサーベルを取り出していた。



「……キャスターの適正があるといったな?」

「ええ。そうだけど……」

「少し協力してもらいたいことがある。」



そう、この後の戦いは俺が立たなければならない。

そんな気がしたから。


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