「お疲れさまです。」



そう言って俺はコペンハーゲンを出た。

すでに夜中の町並み。

さて、そろそろ“記憶どおり”なら例の戦の始まりの時だろう。



「ついにここまで来たか…。」



俺はそう呟くとビルを見上げる。

そこにはあの女性がいる。



「遠坂凛……。」



そこにいるのは魔術の師匠であり、元マスターである少女だった。



赤き弓の戦

第1話 召喚



この世界は俺の過去ではない平行世界。

世界は幾つもの分岐を持ちそれにより無限の平行世界を持つと聞く。

だが、世界は修正力を持っていたようだ。

例えば、俺が自分の過去と違う行動を取ってもどこかで辻褄を合わせて、結局同じ未来へと結び付けてしまう。

そう、まるで俺に聖杯戦争を戦わせる事を望むかのように・・・。


どちらにしろ聖杯戦争が起こるのであれば自分は戦い参加するつもりではあったのだが。

そのために俺は必死で鍛えた。

幸い、英霊エミヤとしての記憶があるため魔術を高めるのに不自由は無かった。

その結果、俺は固有結界の展開も可能な程度まで鍛えることが出来た。

それでも英霊とサシで戦えるレベルまでには至らなかったが。



そして運命の夜。

俺は前回と同じように慎二に言われ弓道場の整備を行った。

そして、頃合を見て校庭の方に向かう。

戦の前哨戦を見るべくして。


校庭ではすでに争いが始まっていた。

攻撃の側にいるのが青い戦士…ランサー。

そして…少女と共にいるサーバント。

それは金髪をなびかせた鎧姿に不可視の剣を持った少女だった。



「……セイバー。」



あの姿は騎士王であるセイバー。

自分と最もなじみの深い英霊でもある。

どうやら今回は、凛はセイバーを引けたようだ。

そこで納得する。

                     アヴァロン
そういえば、自分の体内には“全て遠き理想郷”は無い。

これでは自分はセイバーを呼び出せなかったに違いない。



目の前ではランサーとセイバーの戦いが続く。

交差する不可視の剣と禍々しいほど赤い槍。

両者互角。いや、やはりセイバーの方が押している。

不可視の剣という特殊な武器。

騎士王の実力。

そしてランサーに出ている令呪。

その全てがランサーに不利に働いているのだろう。



不意に手が止まり交わされる会話。

その内容はここからでは遠くて聞こえないがおそらくセイバーがランサーの正体を理解したのだろう。

その会話が終わった瞬簡、ランサーの腰が屈む。

同時に滲み出るほど凶悪なオーラ。

おそらく宝具を使う合図。

あの武器を使うのだろう。

だから俺は……

付近の枝を踏み砕き思いっきり音を立てた。

同時に全力で俺は駆け出す。

自分の足を強化して。



どれだけ走ったかは分からない。

だが、英霊。しかも相手はランサー。

簡単には……



「よお。」



そう逃げ切れなかった。

目の前にはランサー。

いかにもめんどくさそうな表情でたっていた。



「まさか、魔術師に見られていたとはな。」

「……」

「しかもこんなに若いとはな。さっきの嬢ちゃんといいここらへんはそういう魔術師が多いのか。」

そういいながらもこっちを鋭く睨むランサー。

「だが…悪いな。ここで死んでもらう。」



そう言ってランサーは赤い槍を構えた。その威圧感は自分が英霊であった頃とは比べ物にならない。

いや、ランサーが強くなったのではなく自分が弱いからであるからだろう。



「抵抗するなよ。しなければ一撃でやってやるからよう。」

       トレース  オン
「――――投影、開始」

「じゃあな。」



そう言って槍が突き出される瞬間だった。



  ロー      ・    アイアス
「“天覆う七つの円環”!!」



自分が投影できる唯一の概念武装を展開する。

一瞬、怯むランサー。だが、かつて宝具の一撃を止めたこの武器も今の魔術では槍の一撃だけで六枚を破られる。



       トレース フラクタル
「――――投影、重装」



だからその瞬間に俺は後ろに飛んだ。それは射程距離を確保するため。



       我が  骨子    は   捻  じれ  狂う
「――――I am the bone of my sword.」



そしてその瞬間弓と相応しき矢を投影する。ランサーに攻撃を加えるため。



         カラドボルグ
「―――偽螺旋剣!!」

ランサーが構える前にそれを放った。



「くそ!!」



同時に迎撃しようとするランサー。

だが、その直前にガラドボルクを爆発させる。



「くはっ!!」



あまりに意外な攻撃に避けきれず直撃するランサー。

しかし、ダメージは少ない。

だが、足止め程度になったようだ。

だから、俺は駆け出す。

現在の俺が勝つにはやはり“あの場所”しかないだろう。





駆け込んだのは自分の修行場所でもあり、自分の原点である土倉。

運がよければここでセイバーをとも思ったが凛のサーバントである以上それも不可能だろう。

だが、この自分のフィールドである場所なら、強力な固有結界を展開できる。

その確信でここに駆け込んだ。

しかし、自分は生き残れるのか?

ランサーはおそらく次は油断なく襲ってくる。

不意打ちはもはやきかないだろう。

自分の勝率は限りなく低い。



「……だがやれる事をしないとな。」



そう、ここで死ぬわけにはいかない。

その時、屋敷内の結界が作動した。

前回とは違い、入るものには容赦なく攻撃を仕掛けるように改造はした。

だが、英霊にその如き攻撃は足止めにもならないだろう。



              体は     剣で     出来ている
 「――――I am the bone of my sword.」



だから俺は詠唱を始めた。



          血潮は鉄で        心は硝子
 「―――Steelismybody,and fireismyblood」



どうやらランサーが土倉にいる俺に気づいたらしい。

こちらに近づいてくる。



          幾たびの戦場を越えて不敗
 「―――I have created over athousand blades.
           ただ一度の敗走もなく、
      Unaware of loss.
           ただ一度の勝利もなし
      Nor aware of gain」

「全くやってくれるぜ。投影の魔術師とはな。しかもやり手のな…。非常に惜しいぜ。」



ランサーは感心したように喋る。



                 担い手はここに独り。
 「―――Withstood pain to create weapons.
               剣の丘で鉄を鍛つ
       waiting for one's arrival」

「せめてあんたが俺のマスターだったら楽しめただろうな。」



その声はさらに近づく。



         ならば、    我が生涯に 意味は不要ず
 「――I have no regrets.This is the only path」

「だが、悪いな。これも“気にくわねえマスター”の命令でな。」



一気に膨れ上がる殺気。

そしてランサーが土倉に踏み込もうとする。



             この体は、        無限の剣で出来ていた
 「―――Mywholelifewas“unlimited blade works”」




同時に結界が……

その瞬間だった。

眩く光る右腕。

熱く何かを焼き付けられるような痛み。

たまらず座り込む。

そう……それは懐かしい感覚。



「ちぃ!!マスターだったのか!!」



そう叫びながらランサーは土倉から飛び出す。





「貴方が私のマスター?」



光が収まり目を開けると目の前に一人。

長い黒い髪に赤い服。そしてマントを纏った姿。

切れ目の瞳に勝気な微笑を浮かべた女性が立っていた。


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