「それで、執事の募集に応募した人の数は?」



時間は昼時、我らが赤いナイチ……もとい遠野のご主人は優雅なアフタヌーンティーのお時間であった。

後ろに控えるのは右腕負傷の割烹着の悪魔コハッキーと寡黙なる冥土ヒスラー。

これだけで何故か悪巧みの場になってしまうのは本人たちの普段の行いのせいであると信じたい。

ちなみに、レンはベランダの隅で猫モードで寝ている。

これが正しき遠野家の昼食後のお姿。

ここに兄である志貴がいると秋葉のテンションは5割り増しなのだが、今は不在である。



閑話休題



「はい〜。一応書類選考しました。私と翡翠ちゃんで。」

「そう、流石に仕事が速いわね。それで一次選考の突破者は?」



そういって紅茶を口に含む。

その姿は名家のお嬢様、優雅だ。



「一人です。」



だが翡翠が冷静にそう告げた瞬間に紅茶を吐き出すのはまったくお嬢様らしくない。

このあたりは今後の課題ということにしておこう。



「げほっ……ちょっと、どういうことです、琥珀、翡翠?」

「あ〜、えっと、つまり〜。」

「はい、秋葉さまのお言いつけ通り、有能そうで、料理が得意で、裏の世界に詳しそうで、それでいて品位を失っていなさそうで、何より打たれてもへこまない、しなる竹のような神経の束を持っていそうな人物が一人しかいませんでした。」



そう、冷静かつ正確に述べるクールビューティーな翡翠さん。

だが、本来ならその前提でよく見つけれたものだと賞賛するところであろう。



「あ〜、三番目は少し譲歩しましたけど。」



そう、ボソッと告げる琥珀。

だが、秋葉はやや疲れた顔をする。

まさか、世の中こんなに使えないとは、という雰囲気かもし出しまくりである。

そもそも裏の世界に詳しい執事は世界にそういないだろう。

しかも遠野の裏に詳しいお方は秋葉さま直々に消してしまう今日この頃。

メイド姉妹の苦労が忍ばれる。



「で、いいわ。その書類見せて頂戴。」






遠野家物語  〜殺人貴と正義の味方〜


第3話 遠野家に至る道〜三咲編〜




「衛宮士郎……?年齢23歳……。若いわね。執事歴…エーデルフェルト家で5年。うち一ヶ月フランクフルトのデーデマン家での修行を含む、ね。」



経歴を読みながら、秋葉はマジマジと写真を見る。

そして一言。



「目つき悪いわね…。なんか皮肉な執事になりそうだわ。」



一刀両断だった。

人は顔ののみにあらず、されど大方の人の印象は顔から入るという典型例である。



「それで、この人のどこが条件に当てはまるわけ?」



確かにこれだけの経歴では何も読めない。

秋葉の疑問も至極全うであった。



「はい〜。もちろん、裏を取りましたよ〜、秋葉様。この琥珀に抜かりなしです。翡翠ちゃんお願い〜。」

「わかりました、姉さん。」



言葉と同時にどこからともなく紙を取り出す翡翠。

一体どこからというのは聞かないのがお約束である。



「まず、エーデルフェルト家ですが…北欧の古くの名家というのが表での評判です。」

「へ〜、聞かないわね。まあ表では、ね。裏では?」

「魔術師の名家です。しかもかなりの。ただ本家はかなり日本人嫌いだそうですがその辺りの理由までは分かりませんでした。」

「大方、どっかの戦争にでも負けて負け惜しみで逆恨みでもしてるんじゃないですか〜。偏狭なプライドですね、全く。」



笑顔で暴言を吐くのはコハッキーのスキルの一つではないだろうか。

最近、秋葉はそう思っている。



「ですから、確認は簡単でした。衛宮士郎は倫敦に留学していた令嬢ルヴィアゼリッタ=エーデルフェルトの執事をしていたようです。」

「へえ〜、それで。」

「当初は家事が得意で威厳もへったくれもなかったとのことですが、どうやら修行の後に執事モードを会得したらしく、情報提供者いわく優秀な執事となったそうです。」

「しゅ…修行?」

「それがデーデマン家です。」



デーデマン家、はてと秋葉は数秒考えた後にパッと思いつく。



「デーデマン家ってドイツの?」

「はい、フランクフルトの盟主デーデマン家です。」

「かなりの名家ね。でもそれで?」



その瞬間、翡翠のスイッチがカチッと入った。



「はい、デーデマン家は執事、メイドの間ではもはや神のように崇め奉られている一人の執事がいます。かの執事はヘルシング家の執事と双璧をなすというのがもっぱらの噂の人物であるのです。またデーデマン家自体はそこで1週間もった執事とメイドは10年は戦えるという噂をもつ精神、肉体とも激務の館でございます。その噂のためか挑戦者はあとを絶たないのですが、半分は廃人となり帰ってきますし、半分は消息を絶ちます。その切れっぷりはお隣のユーゼフ家と共に伝説として知れ渡っているというのが真相でしょう。このデーデマン家で一ヶ月しかも、廃人にもならずそのまま執事として強化されて帰ってきた人材を取らないであろうか、いや取るべきであると私は愚考する次第であります。私、翡翠としても暗黒翡翠流の後継者として、この男と対峙しなければならないと血が疼くのです。そもそも……」

「あ……あの、琥珀?」

「あは〜。ちょっとスイッチが入りましたので少し静かにしておきましょう。」

「と、ともかくその男、衛宮士郎さんの一次試験は合格とします。すぐに二次面接に召集しなさい。」



召集はないだろうと琥珀は思いながらすぐに行動に移っていた。

ちなみに翡翠は暗黒翡翠流と衛宮士郎の対決の予想を冷静に分析した結果をとくとくと語っていた。






「……受かってる。」



衛宮士郎は驚いた。

合格通知のはがきが届いたのだから。

ペラペラのはがきが来た瞬間一同はさっと逃げ出した。

どうやら不合格通知はペラペラであるというのが相場の決まりであるらしい。

だが内容を確認すると正反対だったという。

何がよかったのか合格である。



そして、今――



「こんな大きな家が日本にあったんだな…。」



衛宮士郎は遠野屋敷の目の前にいた。

別に大きな屋敷を見慣れていないわけではない。

デーデマン家の屋敷もこんなレベルだった。

毎日大破していたが……。

その走馬灯が今湧き上がるのはなぜだろう。



「どうしましたか、士郎?」



隣でたずねるのは言うまでも無くセイバー。

今回もついていく気満々で、ついには遠坂姉妹を撃破する偉業を達成したお人である。

権謀算術は王の嗜みとはよく言ったものだ。

そんなことを思いながらため息をひとつ。

相変わらず衛宮士郎のストレスは絶賛急上昇中である。

とにもかくにもまずはベルを鳴らす所から始まった。








「貴方が衛宮士郎さんで間違いないですね。」

「はい。」

「で、そちらの女性はだれですか?」



そら、のっけからそうくるだろうなと思っていたが、予想にたがいませんでした。

ともかく運が悪いことに面接官は三人とも女性。

真ん中に見るからにお嬢様という感じの女性が座り、その両横に割烹着とメイド服の女性が立っている。

いや、怪しいですよね。洋服の美少女がオプションについていたら。

なんて言おうかと迷っている時に騎士王は一言。



「私は士郎の剣ですから。お気になさらず。」



ああ、ひいてるなぁと実感する衛宮士郎。

この一言をそうかで答えてくれた人物などそう多くはいない。

ああ、あの人はそうかで答えてくれたけど。

ここはあそことは違うわけでして。



「なんて、ね。時間も無いんでさくさく行きましょう。そちらがセイバーさんですか?」



と事も無げに告げる割烹着の女性。

まるで俺がセイバーと来ることが確定済みかのような口ぶり。



「ちょっと、琥珀。どういうこと?」



真ん中のお嬢様らしき人物が割烹着の女性、琥珀さんに尋ねる。

どうやら全員が確信していたわけではないようだ。



「私の情報網によると金髪の女性が一緒にいるという話でしたから。名前はセイバー。その名が示すとおり剣の達人だそうです。」

「……士郎さんの二号さんと聞いております。」



その瞬間カチンという音がしたと同時に室温が下がった。

いや、二号さんてどこの情報網ですか、メイド服のお嬢さん。



「訂正を要求します。私が正室です!!」



そこが問題じゃないだろうセイバー。

と、目の前で異変が起こる。

赤…赤い。いや何がって、髪が。

目の前のお嬢様の髪が一気に赤くなったのだ。

最近のお嬢様は髪を赤くするのがデフォルトなんだろうか。



「すべて……奪いつくして差し上げますわ!!」



だが、セイバーが前に出る。

そして一瞬で戦闘モードに突入。

服を脱いだらふるあーまー。

私脱いでもすごいんですってか、はははっ!



「じゃねー!!」



現実から4マイルほど離れていた士郎であったものの何とか再起動。

そしてセイバーを必死で止めに入る。

なだめすかして幾星霜。何とかかんとかとめてみました。






「それで、これは一体なんですか?」

「はい。とりあえず衛宮さんはこちら方面でも優秀な方であると聞いていますので?」

「……一体どこのソースなんですか、それ?」

「ああー。まあ高速思考の結果といえば解ると思います、とは本人談です。」



あいつか、あの紫の錬金か?

そう実感するは衛宮士郎。

現在地はトオノハウスアンダーワンダーランド。

というかフランクフルトのお屋敷もそうだが、なぜ金持ちの家には地下帝国があるんだろうかと本気で考えそうだ。



「それで、何をするんですか?」

「決まってますわ。我が家を泥棒猫から守るのも執事の役目。ですから……。」



その瞬間、熱光線が迫る。

それを何とかかわす士郎。

そして…現れたのは、



「あれ、何で?」



思わずメイド服の女性翡翠を見る。

そして眼前に現れた存在を見る。



「双子?」

「違います。双子の姉はこちらです。まったく信じたくありませんが。」

「が〜ん。」



思いっきりへこむ琥珀。

さて、士郎の前にいるのは我らがメカヒスイであった。

これと戦えという。



「え、ギャグ?」

「何がですか?」



冷淡に切り返すヒスラー。

ともかく戦うらしい。

とてもじゃないが、女の子相手に本気が……



「ブキヲステロ。」



同時に腕からファイヤー。

しかも一片の容赦も無く。



「なっ!!」



流石の騎士王も驚いた。

あわや士郎は真っ黒こげ。

これでアーチャーと同じ地黒族に仲間入り……



「してたまるかーーー!!」



士郎の超回避。

その速度は神クラスである。

かの軍師なら上上下下左右左右BAとでものたまいながら避けそうである。



「説明を求めます、秋葉様!!」



何とか回避した士郎は先ほどの無礼の後に名前を聞いた秋葉に問う。

ちなみに翡翠と琥珀もその際に聞いた。



「……琥珀。」

「はい〜。あっちにいるのはメカヒスイver25です。琥珀脅威のメカニズムで量産された量産タイプのひとつですよ〜。」



嬉しそうに述べる琥珀に呆れ顔の秋葉と翡翠。

セイバーだけがなっ!!という驚きの顔をしている。



「ともかく、貴方の実力が知りたいの。安心しなさい、さっき見せたように私は表側の人間じゃないし、琥珀と翡翠も裏を知っているから。」



むしろ琥珀さんは裏にどっぷりではないかと邪推する士郎。

だが、今は目の前の無駄にハイスペックキリングマシーンを如何にかしなければならないわけである。

この家に勤めるのやめよおかなーとか思っていたがそうなるとガンドと竹刀の嵐が飛びそうなので肉体的にヘルなのも問題だ。

だから……



「やれやれ…。解りました、マイマスター。」



本気になることにした。

同時に士郎は蝶ネクタイをしめる。



「……雰囲気が変わった?」



そのことに疑問を感じた秋葉はセイバーを見る。

するとセイバーは嬉しそうな顔で解説した。



「あれがシロウの執事の時の姿です。」



その立ち振る舞いはアーチャーに近いものなのであるがそれを言った瞬間に今の士郎ならゲイボルグの50本は飛んでくるだろう。

このモードの士郎も無駄にハイスペックなのである。



「では、哀れな人形さんよ。教育してあげよう。」



同時に前に飛び出した。

メカヒスイもそれに反応、けん制といわんばかりに目からビームである。

それを意図も簡単に避ける士郎。



「遅い。[deivid]さんの投げ縄の方が一億倍早い。」



そう告げると右手を翳す。

そして……



「――――I am the bone of my sword.(体は     剣で     出来ている)



詠唱、同時に脳内でのイメージ。

投影する剣は……これだ。



「――“折れることなき輝く剣.(デ ュ ラ ン ダ ル)”」



その剣を振り下ろす。



「バリヤー。」



同時にメカヒスイが展開する琥珀力バリヤー。

だが岩にたたきつけても折れることの無かったという名刀はそれをもあっさりと切り捨てる。

そして…士郎は。



「ここだ。」



冷静に剣を一閃。

それは掠っただけのように見えたのだが。



「システム……ダウン。」



メカヒスイの動きは完全に止まってしまった。

一瞬の沈黙。



「え…あれ〜。」



そして真っ先に声を上げたのは琥珀だった。



「あの〜。何をしたんですか?」

「ああ、私は物を解析するのは得意な方でしてね。動力に関する線を二三本切らせていただきました。」

「……すごい。」



思わず本音が漏れる翡翠。

というか彼女たちは剣が突然現れたことには驚かないらしい。

まあ、某姫君は空想具現化なんていう出鱈目な武器をもっているのが原因だそうだが、反応がなかったらないでへこみそうになる士郎であった。



「流石、士郎。修行は怠っていないようですね。」

「まあ、セイバーの横に立つと決めたからな。これくらいはできないと。」



やや砕けたものの未だ威厳たっぷり執事モード。

やはりフランクフルトでの生活は伊達ではなかったらしい。

まあ、このモードを始めて見た凛があのアーチャーにしてこの士郎ありとのたまった時、彼はかなりへこんだのではあるが。



「……さて、第2次試験はこれくらいでいいですか、お嬢様。」



少し皮肉が聞いているが、秋葉には気に食わないレベルではない。

それは彼女としては満足なところだろう。



「ええ。それでは最終試験にうつらさせていただきますわ。」






最終試験は…料理であった。

いや、これが彼女たちにとってこれが本命。

なんせ、現状ではこれが最優先事項なのであるから。

ちなみに日にちの問題をここで解決しておこう。

琥珀が腕を折ったその日までに執事募集は行われていたのである。

まあそれでも某赤いナイチチの要望がつらすぎて一次試験の突破すらままならなかったのであるが。

しかし、衛宮士郎は琥珀の骨折という幸運に恵まれた。

そのため、骨を折った即日にはリスト入りされており、琥珀はそれを秋葉に提出した次第である。

その後ろで、“われのせいじゃコラぁ”という翡翠の口ほどに物を言う目線があったのは間違いないことである。



さて、その料理であるが……



まあ結論として言えば、問題はないのである。

流石に中華の赤き巨匠や洋の黒き鉄人に、一部では劣るもののこれでもエーデルフェルトやらデーデマンやらタイガーやらで腕を振るってきた執事。

その腕ににごりはない。

そして……



「……仕方ないわ。不本意だけど、明日からよろしくね。」

「はい〜。それでは衛宮さん。明日からよろしくお願いしますね〜。」

「……よろしくお願いします。」



そういう秋葉の顔は満更でもなかった。

一方の琥珀は相変わらずえへ〜という笑顔。

こういう笑顔をしているやつが一番怪しいとは流石のエミヤンも気がつかない。

そして、翡翠は無表情である。

士郎的には嫌われたかなとも思うのであるが、クールビューティーヒスラーさんはこれがデフォルトなのである。



「って、明日!?」

「はい〜。」

「……引越しの準備は?」

「……僭越ながら私が手配を。」

「あの家族への説明……」

「電話という便利な手段があるはずですわ。」

「とまるとこ……」

「あ〜、明日からはセイバーさんと離れの家に住んでもらいますけど、準備まだですから、遠野グループのホテルを用意させていただいております。」



なんと手際のいいことで。

今更、世界の遠野グループの実力をまざまざと見せ付けられる士郎。




そして話は序章へとづくのであった。



あとがき


士郎、遠野家へ。

という訳で、大体の舞台説明の回でした。

本文に入れるべきところですが…



とりあえず、補足

※ レンは二匹とも遠野家在住。ただし白レンは普段は家におらずフラフラと帰ってきては出て行く生活です。

※ デーデマン家のネタ元は「戦う!セバスチャン」よりです。この漫画はギャグですが一部腐女子向けなんで読もうかと思った人は注意。まあそこまで生々しくないですよ、今のところ。まあ士郎くんはあの世界で揉まれてきたという設定。有能な執事とはセバスチャンのこと。ちなみにセイバーという人物に文句をつけなかったのもデーデマン家執事たるセバスチャン。知らない人はスゲー執事さんとでも思っていただいてくだされば結構です。ようはノリが重視なんで

※ 高速思考の持ち主は一時期倫敦留学していたそうです。その際、士郎、凛、ルヴィアと知り合った模様。流石士郎、ある意味人間磁石。

※ 執事モードはデーデマン家で開眼したこの世界の衛宮士郎オリジナルモード。それは蝶ネクタイを締めるか否かで決まるようで、この状態のみ衛宮士郎は正義の味方でなくなるのである。その性格は皮肉屋だが怒ると狡猾で残忍な性格が露わとなる……訳ではない。要するにアー○ャーモードなのだが本人に言うと女性なら反論が、男性ならゲイボルグが飛んでくる。(この辺り義父の教えに忠実)

※ デイビッド[deivid]さんも「セバスチャン」の登場人物。投げ輪が得意なコックさん。この人に士郎さんは料理を鍛えられました。知らない人は料理の出来る投げ縄の得意な人くらいでいいです。ちなみに“He is ゲイ”であるが士郎にその気は伝染しなかったとさ。

※ デュランダルは言うまでもなくギル議長ではなくてフランスの伝説の剣のひとつでエクスキャリバー、つまり我らがセイバーさんの武器とも並び称されるもの だそうです。

※ 話の辻褄合わせが出鱈目。それは作者が一番…すいません、本当にごめんなさい。

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